秩父山中における多発遭難事件について

今回のエントリは大雪山遭難事故とは直接の関係はないのですが、数日の間に同じ山域で9名が命を落とすというショッキングな出来事についてコメントをいたします。

7月25日に秩父の山中で発生した死亡事故について、所属組織が次のように声明を出しています。

秩父市大滝の山中における事故」について

去る7月25日奥秩父・滝川の山中におきまして、当連盟所属の会員が沢に滑落・死亡 いたしました。
この事故の救助活動中、埼玉県防災ヘリが墜落し搭乗されていた5名もの多くの方々の人命が失われるなど、多大なご迷惑をおかけする結果となってしまいました。
ここに謹んでお詫び申し上げるとともに亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
当連盟は日頃より「安全登山の教育・啓蒙・事故防止」活動を目標として努めてまいりましたが、今後これらの活動を更に見直し、尚一層改善し努力する所存でございます。
どうぞよろしく御願い致します。
http://twaf.jp/whatnew/165-201007.html(2010年7月31日現在の表示にもとづく ※その後削除され、2日時点でまた復活した模様です)

このお知らせが削除された理由は不明ですが、2chの登山板によれば東京都労山主催の沢登り登山教室のプログラム中の事故らしいこともわかりました。この情報もまた削除されています。もちろん正確な理由は不明ですが、何かを隠そうとする行動であることは疑いえません。恐らく登山教室プログラム中の事故であることを隠したかったのでしょうね。

768 :底名無し沼さん:2010/07/31(土) 00:45:40
やっぱりHPからは削除されたね
東京都連盟 2010年 沢教室開催のお知らせ - 東京都勤労者山岳連盟
http://megalodon.jp/2010-0725-2056-04/twaf.jp/2010-03-05-02-25-46/14-sawakyousitu/127--2010-.html

東京都連盟 2010年 沢教室開催のお知らせ

昨年に引き続き沢教室(第4回)を実施します。また、別途、沢ネットワークを続いて実施します。

目的

1. 沢登りの基本を教える。沢登り愛好者を増やし、沢登りの底辺を広げる。
2. リーダー層の育成、青年層の参加及び沢技術の継承。
3. 都連盟会員及び各会の交流。

2010年度の沢教室(講座)の日程、場所等について

1. 座学(場所はいずれも全国連盟事務所)
1回目 6月16日(水)講義内容 自己紹介、装備、地図、ザイル操作(1)
2回目 6月22日(火)講義内容 ザイル操作(2) 講師 都連盟救助隊に依頼
2. 実技の日程及び場所について
参議院選投票7月11日)
1回目 7月9日(金)夜〜10日(土)、雨天場合は11日(日)にスライドする
場所 西丹沢 小川谷廊下

2回目 7月23日(金)夜〜25日(日)
場所 奥秩父 古礼沢
3. 参加費について
昨年は、会員8,000円 学生5,000円 一般10,000円
4. 募集人員及び募集時期について
10人程度
5. 参加資格
山岳保険に加入しいること。家族が沢に行くことを承知していること。

申し込み先:事務局へのお問合せフォームよりお申し込み下さい。
申し込み締切日:6月14日(月曜日)

そんなことで報道に関心を払ってみているところへ、驚くべきニュースが飛び込んできました。

山梨・甲州の男性不明:あきる野市の男性、秩父山中で遭難死 /東京
 ◇ヘリ墜落現場そば

 山梨県甲州市の山中に車を置いて行方不明だったあきる野市、小池雅彦さん(45)について同県警日下部署は27日、25日に埼玉県秩父市の山中で発見され、直後に死亡したと発表した。

 埼玉県警秩父署によると、25日午後2時半ごろ、埼玉県防災ヘリの墜落現場へ向かう途中の同署員が谷でうずくまっている男性を発見。男性は小さな声で「小池です。50メートルくらい上から落ちました」と言って意識を失い、県警ヘリで秩父市内の病院へ運ばれ、まもなく死亡したという。27日に家族が本人と確認した。

〔多摩版〕http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20100728ddlk13040249000c.html

別の報道によると、家族には「写真をとりにゆく」といって24日未明に出かけたそうであり、発見場所は先の事故現場から100mほど離れたところだったという。
そして、さらに驚くニュースが入る。

ヘリ事故現場を取材の日テレ記者ら2人死亡 秩父の山中
1日午前9時10分ごろ、埼玉県秩父市の山中で、日本テレビ記者の北優路(ゆうじ)さん(30)=さいたま市浦和区=と、同社カメラマン川上順さん(43)=東京都江東区=が倒れているのを県警の救助隊が発見した。2人とも心肺停止状態で、病院で死亡が確認された。2人は7月25日に起きた県防災ヘリコプター墜落事故の現場に向かっていた。県警は2人が遭難した経緯などについて調べている。

 県警によると、2人が見つかったのは、乗員5人が死亡したヘリ墜落現場から北東に約2キロ離れた沢。7月31日午前6時半ごろ、日本山岳ガイド協会の男性ガイド(33)と一緒に、秩父市大滝の豆焼橋付近から入山。しかし、沢の水流が多く、2人はTシャツにジャージー姿と軽装だったため、ガイドの判断で豆焼橋に引き返したという。

 その後、午前10時ごろになって、2人は「黒岩尾根(登山道)を歩いたことがあるので、そちらを撮影してくる」とガイドを残して再び山に入ったという。

日テレ装備不足を否定 死亡のカメラマンは山岳取材のベテラン

2010/8/1 21:01

 「有能で意欲的な記者を失い残念な思いでいっぱいだ」。日本テレビ細川知正社長は1日午後、社員2人の遭難を受けて東京都港区の本社内で記者会見し、突然の悲報に険しい表情で語った。

 死亡が確認された報道局映像取材部の川上さんは、これまでにアラスカや中国など海外の厳しい自然の中での取材経験もある山岳取材のスペシャリスト。山での突発の事故では真っ先に現場に駆けつける取材班の中心的存在だった。

 同社によると、防災ヘリコプターの墜落現場周辺のニュース取材は事故から2日後の先週火曜日ごろから検討。社会部長を中心に相談し、1日限定で小型カメラを携帯し、ガイド付きという条件で経験豊富な川上さんと、今年6月までさいたま支局に所属し、事故発生当初の取材にも参加した社会部の北さんを取材に派遣することにした。

 2人は発見時、Tシャツにジャージー姿と比較的軽装だったが、杉本敏也報道局次長は「この装備は沢を渡るときだけのもので、(山岳取材に必要な)荷物や上着なども持っていた。無理な取材を強いたこともない」と、事前の計画や装備の準備不足を否定した。

 ただ、2人が当初予定とは違うルートにガイドなしで再度、入山した経緯は不明。杉本局次長は「なぜガイドと離れ、事前の打ち合わせと違う場所に行ったのか分からない」と声を落とした。

ほぼ同じ現場で数日の間に9名が遭難死

これだけでも異常なことですが、ヘリ墜落は救助中における二次遭難といえるだけに、原因解明が望まれるます。他のグループや単独登山者については二次遭難といえるだけの因果関係はないと思われますが、これだけの犠牲者が同時期に出ていることから警察当局におかれては原因を慎重に見極めてほしいものです。

日本テレビは、川上さんは経験豊富*1で、事前の計画や装備の準備不足を否定したといいます。
現在詳しい死因や事故原因は不明です。それなのに、どうしてそんなことをいえるのか??ですが、それをさしおいても、私はつねづね、登山の世界で「経験」「ベテラン」を強調する奴は怪しいと主張しています。
豊富な経験などというものは、プラスにもマイナスに作用するのが登山というものです。
あのときはこうだった、という思い込みが邪魔して、理性的な判断をなし得ない場合がしばしばあります。リスクマネジメントの世界では、これを正常化バイアスといいます。「ベテランがなぜ」などという小見出しをしばしばみかけますが、登山の世界だけです。きちんとヒューマンエラーの分析をしないで経験不足に原因を求めて責任追及モード全開なのは。
もし経験を定量化できるのであれば別ですが、できないのであれば安易に経験に原因を求めてはいけません。
また、なぜ計画と異なる行動をとったこと自体に計画段階の瑕疵はなかったでしょうか。


それから、この遭難者はパンキシャという番組のための取材であったという疑いが浮上していますね。
パンキシャといえば、世間に迷惑をかけるような山岳遭難をネタに非難したりして視聴者のガス抜きを図っているような番組をみかけますが、完全にブーメランとなりましたね。

個人的な思い

個人的には、これらの4件の事故の中では、小池氏がお亡くなりになったのが大変ショックを隠せません。
なぜなら彼こそが、昨年の今時期にトムラウシ事故遭難の分析において、お世話になったサイトの管理人だったからです。その後の私への執拗な嫌がらせがいろいろとあったが、それについては、アクセス解析の状況からして、私は今でも彼が主犯だと思ってますが、それについてはもう忘れてもよいとおもっています。決して許さんけど、もうええわな、というか。

単独行

小池氏には最後にひとつだけいわせてください。

どんな登山哲学をもとうと、死んだらあなたの負けだよ。
私も単独登山の魅力につかれたことがあるのでわかる面があるのだけど、単独行には、ひとを求道者のように陶酔させる面があります。それは強さの証しとして自分の目には映じる一方で、第三者から何もフィードバックされることのない脆弱性にはなかなか気がつかないものなのだ。また独りであることが過度に自分自身を追い込んでゆくこともときとしてある。単独行の危うさというのは、集団登山ではないような、強い自律性を要求されながら、みえない脆弱性と戦わなくてはならないところにあります。少しでも隙をみせたら命取りということがしばしばあります。それだけの緊張感と戦い抜いたあとの気分は私にもよくわかるし、何度も味わいたい気持ちもわかります。

思えば、あなたのウェブサイトはいつも単独行の記録ばかりだったね。

私の持論は、いいかげんさを持ち合わせている人間が最後に生き残る、とつねづね思っています。
いつも、独りであることに酔ったままではいけないのです。
だからこそ私は単独行の武勇伝を人には語らず、仲間に助けられながら登った山の記録をむしろ公表しています。自分の弱さを知ることのほうが私には大切なことであるし、身の程を知ることによって単独行の限界もみえてくるからです。

ウェブサイトで、小池さんの撮影された数々の写真をみせていただきました。静かな山の、一瞬をとらえた写真はどれもすばらしいものでした。
美しい夕暮れの写真を撮影して幸せそうにカメラをしまいこむ小池さんのことが想像されます。
今回はいい写真がとれましたか。最後に幸せな瞬間があっただろうと信じています。

謹んでお悔やみもうしあげます。

*1:私の記憶が正しければ少なくとも学生時代には中部日高の!!!マーク(今は懐かしい山谷本レート)の沢を4,5本踏破した経験があるはずです。

トムラウシ山遭難事故調査報告書のまやかしと盲点

前回でもご紹介しましたが、トムラウシ山遭難事故調査報告書(最終報告書PDF)がこの三月に発表されています。
報告書の盲点―それは登山ガイド業界や旅行業界に蔓延する登山計画を軽視する風潮に実質的なメスが入っていないことです。(3/8追記 http://www.imsar-j.org/2009-04-23-09-38-06/2009-04-23-10-26-43/97-2010-03-04-08-13-46.htmlの資料の論調も拝見しましたが、さらに輪をかけて安易な解決方法に陥っています。)
また、何かを提言しているようでいて、しかし具体的な内容に乏しいため、それらは観念論にとどまり、具体的な実践に活かされることなく忘れ去れてしまうことでしょう(ととりあえず釣りっぽくはじめます。時間のない読者は太字だけ追えば論旨はつかめます)。

この報告書自体がそのことに対して完全に無自覚であり、いってしまえば業界全体として登山計画を軽視する風潮にどっぷりとつかっていることがうかがえるのが私には重い病のように感じられます。
それからもう一点、事故調査報告書には過失責任の追及というスキームを忍ばせてはいけない。この誤りを報告書は犯しています(責任の重さを強調して何か意味のあることをいった気になっているだけ)。

本報告書の暗黙の前提

恐らく、報告書の執筆陣には、登山という行為は、実働部隊の経験豊富なリーダーを中心に実行されるべきものだという自明の前提があるものと考えられます。(以下、9日追記始め〜)

日本山岳ガイド協会の特別委員会(節田重節座長)は24日、最終報告書を公表。事故の原因をガイドのミスとした上で、国が関与し、レベルに応じた資格の導入も検討すべきだと提言…中略…
 「ツアー登山では、ガイドの存在がすべてと言っても過言ではない」。トムラウシ山遭難事故の最終報告書は、厳しい自然の中で参加者を導くガイドの責任の重さを繰り返し強調。知識、技術、経験を備えたガイドの養成が急務と指摘した。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/yama/CK2010022502000213.html

一見、説得力を感じるからこそ始末に悪い。もしこれが別の分野だったらどうかを想起すれば私の違和感はつかみやすいと思います。05年のJR西日本福知山線脱線事故で、運転手に対する日勤教育の強化が必要、といった筋肉質な結論が報告されていたら、世論は調査委員会の見識を疑うことでしょう。
事故は旅行会社、ガイド、参加者のそれぞれに要因が複雑にからみあって発生したことを報告書は明らかにしておきながら、中心問題をガイドの責任にすえてしまったがために、その処方箋をガイドの育成にもとめるというマヌケた結論に仕上がっているのです。
(以上、9日追記終わり*1。)
しかし、組織登山はツアーであれ、山岳会であれ、組織として登山を計画し遂行するものです。ですから立案者(旅行会社)が判断はすべて現場に任せていた、というようなことは、本来組織として間違っているのです。それならば、はじめからガイドが計画をつくったほうがましです。事故の原因がリーダースタッフの経験不足により判断ミスを重ねたものというドグマによって、「即席ガイド」や無資格のガイドを問題視し、「ガイドの国家資格を」という具合に、とにかくガイドを監督する仕組みと行動指針作りをして徹底的にガイドを鍛える、みたいな他の業界ではみられない独自の解決が提案されてしまうのです。
もちろん、ガイドを名乗りながら実は小遣い稼ぎのバイト君みたいな、小細工も問題であるのは間違いありませんが、より根本的な問題は登山計画としての準備不足です。それに旅行業者の問題意識が高まれば、自ずとガイドの品質にも目を向けるはずです。

この報告書の各執筆者に無自覚に共有されている自明の前提からすれば、私がいかに登山計画こそが安全登山のキモであると主張しても、次のように切り返すのではないでしょうか。

いかに完璧な登山計画を用意したとしても、実施する側、とりわけ登山のリーダーの力がなければ絵に描いたもちではないか。
事故は会議室で起きているのではない。自然は計画の想定を裏切ることがある。完璧な計画などありえないのだから。だからこそリーダーの現場の判断能力が求められるのです。

それは確かにそのとおりなのだけれども、それは条件を逆に入れ替えてもいえることなのです。
つまり

いかに有能なリーダーがいても、登山計画に不備があればリーダーの力を十分に活かすことはできない。

といえます。
もしかりにずさんな計画にもかかわらず、直面した危機を乗り越えて遂行したとすれば、それはリーダー自身が頭の中で周到な計画を立てていたか、リーダーの経験上のとっさの判断が効を奏したかのどちらかのはずです。
さて、どちらが大切なのでしょうか。
このように言い換えてもいいです。本報告書の基調は現場でのタクティクス重視である一方、私は机上でのストラテジー重視なのです。事故の結果から、あのときリーダーはこうすべきだった(予見可能だった)、という反省が出てくるとすれば、それは事象への想定を超えた事態にリーダーの経験が追いついていなかったのではなく、それは想定すべき事態(予見しえた事態)を計画に含めていなかったミスなのです。

トムラウシ山遭難の教訓はまずは今後の計画に反映させるべき

少なくとも、本報告書で得られた教訓はどの点をとっても、類似の計画に活用することができるはずです。だとすれば、まず計画の精度の向上に着手すべきであって、それでもなお、計画に限界を見出したときにはじめて、リーダーの能力向上プロジェクトの検討に至る、というべきです。本報告書に欠如しているのは、今後のプランニングへの提言です。

「計画が不完全であった、だからリーダーの能力向上が必要だ」というのは論理の飛躍です。

私は、7月の遭難事故は、16日早朝に適切に天気判断をするツール(ラジオ、天気図)があり、天気判断をする安全上の基準が計画上、すべてのリーダーに共有されており、16日朝に判断することがきまっていれば「なんであんな天候で出発したんだ」なんてことにはならなかったと考えています。現場ではお客さんに「当社の安全基準では、この天候では行動を見合わせることになっていますので」といえば終わった話です。

しかし、現実には、このもっとも重要な判断に失敗したがために、その後、未熟かつ連携の悪いリーダースタッフに次々に不測の事態が襲い掛かります。対処の誤りが次々に新たな問題を生み出し、対応能力の欠如したリーダースタッフは対処すればするほど問題を作り出すという悪循環に陥っていたわけです。ガイド業界には、ガイドレシオなどという実にナンセンスで出前味噌な基準がありますが、実は、トムラウシ山遭難の強いインパクトに隠れて話題にも上らなかった同日の美瑛岳の遭難ではガイド3:客3のマンツーマン体制であったことが明らかになっています。低体温症という事態に対して、美瑛パーティも適切な対応をとり損ねていました。美瑛岳の関係者の話を聞く限りにおいては、ガイド3名体制であったことが幸いして、被害の拡大を防いだことがうかがえます。1名の低体温症の発症という事態への対処としてサポートがどれくらい必要であったかの答えは当日の伊豆ハイキングクラブの動向や美瑛岳遭難に多くのヒントがあるのではないでしょうか。

ただ私が何度も指摘することですが、この悪循環にはまり込んだあとの危機対応の欠如の問題をガイドの資質や能力の問題にのみ還元するのは一面的だと思います。修羅場となった現場では、トランシーバもなくテントも活用されず、最終判断者も明確とはいえず、さらにリーダースタッフ自身が低体温症に罹患した疑いがあるなどの機能不全に陥っていました。
最後の点について「リーダーは客より先に消耗してはならない(P39)」と報告書は戒めています。リーダーの自己管理能力も確かに問われますが、リーダーすら余裕を失うような天候で行動したこと自体が招いた二次的な人災というべきです。リーダースタッフがパーティをコントロールしオーガナイズする統制能力を失ってしまえば、あとはどんな災害が起こってもおかしくありません。

つまり、事故のトリガーは小屋での出発の判断だった。私はこういう認識をもっているので、ガイドの判断能力向上といった処方箋に違和感を覚えるわけです。


そういうわけで、私はツアー登山が組織的に遂行される業務登山である以上は、現場の臨機応変な判断など必要最小限に抑えるべく、想定されるかなりの事柄は計画において可能な限りシミュレーションされ尽くされるべきだと主張しています。
私は現場での人間の能力や経験知には限界があると確信しているからです。かりに豊富な経験があったとしても、ときに認知バイアスを生み、逆に正しい判断を狂わすこともあります。「あのときは大丈夫だった」というように、人間は状況に対して都合の良い判断をしがちなのです。たとえば、災害の常襲地域では住民は対応になれているはずなのに、想定を超えるハザードが発生したときに被害を見くびって避難しなかったという事例が防災分野ではしばしばあります。同じ事をこれまでも繰り返しのべてきました。

ガイドやリーダーを過信しないシステムが必要。これが私の結論です。

これは一般登山者についても同じです。自分自身の能力を過大評価しない。
ではどうするべきか。これは計画段階で可能な限りリスクコンロトールするのが一番合理的とずっと主張しています。責任論の次元でいえば、現場の人間の責任が重いことはいうまでもありませんが、教訓として残すべきは組織の問題が中心となるべきです。それがあってはじめて有効にガイド能力の強化の段階に移れると考えています(http://d.hatena.ne.jp/swan_slab/20090811#c1253382726より)。

また有能な人材にもリソースの限界があります。人材バンクをつねに経験豊富なガイドでいっぱいにする、など夢物語です。
むしろ、経験の浅いリーダーでも安全に遂行できる計画づくりこそが急務である、というのが私の主張の核心です。

さらにそれらの計画のブレイクダウンは顧客にも情報公開されるべきだと考えています。具体的には、どのような天候であれば行動を中止するのか、どのくらいのペースで歩行するのか、難所での対処方法はどのようなものか、ひとつひとつについてです。公開することで、衆人の評価のもとにさらされ、ときには批判をうけたり、逆にライバル会社に有効活用されたりするかもしれません。しかしこういう情報は一会社だけの問題ではなく半ば公共財と割り切るが良いと私は思います。

報告書ではこれらの事柄は、旅行会社が整備すべき業務マニュアルとして提言されていますが、これらの情報は反復継続されるという意味での業務マニュアルであると同時に、プランニングの一部です。
必要なのは、具体的な計画への組み込みです。例えば、計画のルート中に難所がある場合をかんがえてみましょう。

A地点は比高50m距離130m平均傾斜25度の雪面があります。
予想される危険性は滑落です。
このツアーにおいては歩行の安全のためアイゼン着用し、サポート要員による雪面の足場作りを確保します。
難所通過はトータル100m、約15分と見込まれます。
通過時には前後の歩行間隔を2m以上はあけます。
万が一誰かが滑落しても巻き込まれないように、斜登高します。
A地点通過に必要な能力は自力ですばやくアイゼンを着脱できる力です。アイゼン歩行経験は問いません。
現場到着時に前進可能かどうかの判断をします。強風により体がふらつくような天候では引き返します。
歩き出す前に歩行のテクニックのアドバイスをします。

といった具体性です。
1.ルート上の自然条件、2.リスク、3.対処方針と行動概要、4.行動に要求される技術水準と装備、5.行動基準 
を網羅しておくのです。少なくともこの5項目の整理は、計画作りのひな形といってもいいファンダメンタルな要素です。実際にはこれにリーダーの状況判断やインストラクションのキャパも問われます。
何度も繰り返しますが、これは現場の臨機応変な対応でももちろん十分可能かもれませんが、計画において事前に検討され、コンセンサスをとっておくのが組織登山というものであり、マネジメントです。
こういう地道な作業はまだるっこしく忍耐が必要です。
これを省略してガイド育成団体にまかせてしまえばよいのではないか、という意見もありそうです。ガイド団体のガイドラインを充実させ、認証を強化すれば十分ではないかと。
しかしガイドの能力確認自体を認証制度を通じてアウトソースしようという方向性には疑問を感じます。
有能なリーダーの人材育成が無意味とはいいませんが、そこに本質的な解決の出口をもとめ、計画策定プロセスを軽視すると、繁忙期にガイドの人材が枯渇した穴をついて、結局また同じ問題が起こりえます。実に非生産的であほらしい解決方法です。経験未熟なガイドというのは存在して当たり前であり、この穴は常にあいているのですから。昔はよくいわれました。「冬山経験10年なんて何も知らんと一緒」と。実際そのとおりと思いますよ。人知や経験などたかがしているものです。そして人材を育成するというのは時間と手間がかかるものです。

であれば、短期間で取得できちゃいそうな国のお墨付き制度の創設よりもむしろ、旅行会社に身の程知らずな計画をつくらせない業界全体の努力のほうがよっぽど重要です。もし調査チームが経験の浅いガイドには過大な計画であった、と結論付けるのだとすれば、この登山計画に経験豊富なリーダーが必要である、さもなくば計画自体が無謀である、という提言にならざるを得ませんが、私はそれは違うと思います。ただ単に経験の浅いリーダーを前提とした、より安全側にたった計画が立てられていなかった、という見方をしています。

綿密な計画策定の3つのメリット

計画策定のプロセスに時間をかける、という発想は今までこの業界では考えられてこなかったように思います。
このメリットは顧客にとっても管理組織側にとっても、現場の人間がどういう判断をするか、について予測可能性がうまれる点にあります。また情報を共有することにより判断ミスを事前に相互にチェックする機能もあります。
例えば、リーダーがうっかり雪面の登り方の説明をせずに出発をはじめたとき、客でもサブガイドでも「あれ、ここで歩行練習するんじゃかなったでしたっけ」と声をかけることもできるようになります。
第三に、暗黙知の顕在化です。これは、ガイドや優秀なリーダーがどのように次世代の人材を育成するかの手法を想起すればわかります。「経験を積むにはとにかく山にいくしかない」というのは一面的で、実際には例えば、07年問題でみられたように、団塊世代の熟練工が作業手順書を残すといったことは非常に有効だったわけです。

この報告書では、ガイド間のコミュニケーション不足が致命的な問題とされています。現場の判断ミスについて以下のように指摘されています。

 次に第 2 のポイントは、稜線のヒサゴ沼分岐から天沼や日本庭園にかけての判断である。
中略
スタッフの一人しかこのコースの経験がなかったとしても、情報を共有しておれば、それぞれが意見を出し合い、臨機応変の対応がとれたはずである。
ロックガーデンを登り始める前に、なんらかの判断がなかったことが、返す返すも悔やまれる。危急時におけるリーダーシップおよびフォロワーシップの欠如が、このパーティの命運を左右したとも言えるだろう(P37)

リーダースタッフ間の相互のコンタクトをどのような場合にとるべきか、これは計画段階でコンセンサスをとるべきです。
判断する地点も事前に決めておくべきです。この場合、ヒサゴ沼分岐です(もし当該パーティがラジオをもっていたなら間違いなく避難小屋が最終判断地です。午前4時の気象通報とNHKの天気概況という確実な情報源をもたず、どこで何を判断するべきかの明確な合意がなかったのが問題だったのです)。
少なくとも三人の間で判断地、判断事項、最終判断者について確認される必要がありました。
事前に決めておけば、しかるべき地点にくれば自動的に話し合いがもたれるわけです。

こういうことをあらかじめ決めておかないとどうなるか。
それこそ、この遭難事故の原因をめぐるネット上の議論と同じように、このパーティがどこで引き返すべきだったかのエンドレスな論争に突入するのです。
机上でも意見がわかれてしまう微妙な問題を現場の判断にまかせる、臨機応変の対応に期待するというのは賢くないやり方です。
例えばP36で報告書は16日朝の現場の判断に疑問を呈し次のように述べています。

 しかし、「ひとまず出発してみよう」という判断は、途中で引き返したり、別のコースに避難する可能性も含んだ判断である。それであるなら、夜明けとともにリーダーは若いスタッフを稜線のヒサゴ沼分岐辺りまで、空身で偵察に走らせるという方法もあったのではないか。それにより出発遅延の30 分という時間も、有効に使えたはずである。経験不足から思いつかなかったのかもしれないが、偵察によってかなり正確な判断材料が取得できたことであろう。(傍線はスワン)

ここで提案されている事柄はあらかじめ計画段階でコンセンサスをとりうることです。経験の有無は関係ありません。

本報告書のルート評価は不明確

また、報告書ではガイドB(多田ガイド)のリーダースタッフとのしての関与の弱さを指摘し、次のように述べています。

ガイドBは、天人峡温泉への緊急避難も心積もりとしてはあったと言うが、リーダー以下、なんの協議も判断も下していない。もっとも、同一条件下で、化雲岳を越えて天人峡温泉へ下るコースも、緊急避難路としては楽ではないが……。
 引き返すか、もしくは緊急避難路選択の判断をするなら、日本庭園までの間、すなわちロックガーデンを登り始める前がリミットだっただろう(P37)

報告書作成に関わった調査チームは現場を視察したんでしょう?
であれば「楽ではないが……。」などとルート評価についてあいまいな記述をすべきではなく、明確に白黒つけるべきです。
調査チームは、当該遭難パーティの力量では天人峡コースのエスケープは現実的ではなかった(計画に含めることがそもそもできなかった)などといった調査チームによる評価の確定です。ルート評価をせずに現場の判断の是非を議論するなど、はっきりいって順序がめちゃくちゃです。それに前回もツッコミましたが、ロックガーデン手前(出発から約3時間後)をリミットと評価すること自体が不合理です。報告書の別項で指摘されている低体温症リスクとのからみでいえば、とっくに症状がでていてもおかしくないです。
このような記述は不正確なばかりでなく、有害です。川の渡渉でいえば、おぼれそうになるギリギリのところまでいってそこがリミットだといっているようなものです。さらにいえば、別項で述べられている低体温症についてのすばらしい分析と何一つ整合性がとれていない。

本報告書では、プランニング能力向上が軽視されている

遭難事故報告書において、登山におけるプランニングそのものが軽視されている、というのは、そういうことです。本報告書中において、「計画」ないし「プラン」という語彙が使用される頻度の少なさとその内容をみても明らかです。
以下に引用する文章が全91頁にわたる当遭難事故報告書中において、計画について言及されたすべての箇所です。

本遭難事故要因の検証と考察

企画・運営しているツアー登山旅行会社の問題

アミューズトラベル株式会社(以下、アミューズ社)は1991 年の創業以来、年々急成長し、リスクの高いツアー登山部門にも進出してきた。その成長ぶりに比して、社内やガイド・スタッフのリスク・マネージメント体制や能力が対応できていなかったのではないか。まずは、旅行と登山の違いを社内やガイド・スタッフに徹底させるべきである。登山の場合、旅行業法上あるいは保険の裏打ちだけで許容される範囲のみでは、危機対応できるものではない。現状で多くのツアー登山を鑑みるに、登山行為を単なる旅行商品の付加価値として位置付けていないだろうか。
中略
今回の大雪山・旭岳〜トムラウシ山の縦走コースは、百名山の人気商品だが、旅程を管理するのに天候や顧客のレベルなどが不安定で、スタッフの人員配置など安全管理に関わるコストも高くなり、募集が難しいので他社が撤退しているプランである。それ故、最近では途中の忠別岳避難小屋泊を入れて3泊4 日とし、その日を「隠れ予備日」としているプランや、ヒサゴ沼避難小屋に2 泊し、トムラウシ山を往復するプランなど、安全性確保の見地から工夫している会社もある。
 一方、アミューズ社はこのプランを、幸い事故もなく10 年ほど継続してきたが、コースそのものに技術的な難しさがないこともあり、その間に危機意識が薄れていたのではないか。このロングコースを避難小屋利用(テント泊のこともある)で縦走するのは、特に今回のような年齢構成で、悪天候に遭遇した場合、かなりシビアな状況になることは、予測できたはずである。今回のツアー企画の脆弱性(参加者のレベル把握が不十分、食料は参加者持参のため重量負担大、貧弱な食事でカロリー摂取不足、エスケープルートなし、予備日なし、幕営の可能性がある避難小屋利用による居住性の悪化や睡眠不足のリスク、ガイドの土地勘なし、など)に対して会社は認識し、リスクを想定して危機対応をシミュレーションした上で、それを担当ガイド・スタッフそれぞれにしっかりと伝えているとは思われない。
 そもそも避難小屋泊まりを前提としたようなツアー募集は、避難小屋本来の使用目的から逸脱している。同社は人数分のテントを確保していると言うが、幕営による参加者の負担をどの程度に認識していたのか。特にテント泊に慣れていない人、あるいは高齢者にとって、悪天候下での幕営は大きな負担となり、翌日の行動に支障が出ることもあるだろう。
 また、本コースに限らず、アミューズ社はコース運営上の問題に対して、ガイドの意見を吸い上げていただろうか。社内での十分な検討なしに、他社のコース設定の受け売りであったり、既成の企画を惰性的に継続するだけの安易な運営が行なわれており、ガイドの意見が企画部門にフィードバックされていなかったと聞く。実際に山の中でツアーを運営してみてのガイドの経験や見解は、貴重な生きた情報である。それらを反映させることによって、ツアープランの安全性がより高まることは確かであろう。
 さらに、天候悪化に伴う危険回避に対する具体的な判断基準が社内になく、したがって、ガイド・スタッフに対して明確な指示として出されていなかったことが、混乱を招いたものと思われる。特に今回は夏山ということもあり、特段の注意は与えられていなかった。さらに今回のようなリスキーなプランを実施するにあたっては、危機意識や危急時対応について共通認識を持つことが必須であるが、そのために、スタッフ・ミーティングをしっかり行なうよう、会社としての指導が徹底されていたとは思えない。(P40)

気象から見た本遭難の状況および問題点

4 気象から見た本遭難の問題点と今後の課題

(1)事故原因として考えられる気象的要因
事前の天気判断
 低気圧の通過、その後の寒気流入による悪天が十分予測されていたが、登山計画に反映されなかった。

(2)今後の検証課題
 今後の検証課題としては以下が考えられる。
トムラウシ山特有の気象現象の把握が必要である。たとえば、縦走路中での風と地形との関係、風の強い地域と弱い地域の検証。
・強風を伴う霧雨と濡れとの関係の検証。
旅行会社のツアー登山企画における気象判断基準、悪天時の予備日設定の有無についての検証。
(P88)

伊豆ハイキングクラブの動向

1 計画

 トムラウシ山登山は2009年の4月に計画、チーフリーダーを決めて実行に移した。リーダーは 6 年前にトムラウシ登山の経験があった。6名が参加することになり、出発までにそれぞれ役割分担を決めて計画を練った。メンバーは女性 4 名、男性 2 名で、平均年齢が 65 .8 歳。
 1日の行程は年齢を考慮して5?6時間とし、山中3泊4日で、1日予備日的に余裕を持たせた。テント2張を持参、食料計画も立てた。防寒対策としてフリース、ダウンジャケットを持参し、荷物は一人13Kg以上になった。出発までに4回のミーティングを重ね、ボッカ訓練は15kg以上の荷物を背負って1人3回のノルマで山行を行ない、また、北海道は雨も予測されるので、雨天の訓練山行も行なった。

6 考察

 食料計画を立て、防寒対策を施し、そしてボッカ訓練までして臨んだ、用意周到な計画での山行だった。しかし、どれだけ用意周到な計画であっても、山は天候に左右されることが多いから、計画の中に危機管理の要素が必要になってくる。エスケープルートの確認、通信手段、ラジオなどによる情報の収集手段、テントやツエルトの用意、予備日、予備食などがそれに当たる。(P90)

一応、それなりに当該ツアーの計画段階でのずさんさを指摘し、計画策定の重要性に言及してはいるものの、一般論に終始し、ブレイクダウンがないのです。静岡パーティの計画についての言及は、この報告書の基調を象徴する書きぶりになっています。

天候の予測とパーティの行動決定については、(伊豆ハイキングクラブ・パーティは)意見をまとめることに苦慮していた。行動に不安を感じたら、やはり安全策を優先させるべきだろう。結果的に無事下山できたとはいえ、あの悪天候の中、ヒサゴ沼の避難小屋を出発すべきではなかったと思う。

として、判断の問題を指摘しています。一見すると何の違和感もない文章に思えますが、明確な判断基準がなかった、業者パーティにつられた、などといった失態は計画上のミスであるというべきです。教訓としては「あの悪天候」を判断基準化する必要がある。これは現場の判断ミスというよりも、そもそも判断基準がなかった、あるいは間違っていたことの問題です。
「計画は周到だった、だが判断はずさんだった」式の認識から脱却できないから、いつまでたってもその教訓を次の計画に落とし込んでいくというサイクルに入れず、リーダーの判断の責任ばかりがとわれつづける悪循環にはまるわけです。周到な計画作りと現場の判断を分けて考えてしまう、ここに登山業界の病があるというべきです。

全体として、調査チームはトムラウシ山という山域の現地調査、気象、運動生理学、関係者へのインタビューなどをしておきながら、本来計画上どうあるべきだったかについての具体的な記述が極めて少ないといわざるを得ません。
とりわけ気象面の記述は、「旅行会社のツアー登山企画における気象判断基準、悪天時の予備日設定の有無についての検証」等、ちょっと関係者に聞けばわかるようなことを今後の課題と書いており、あまりにひどい。
一体いつまで課題として検討するつもりなのでしょうか。

教訓から得られた天候判断のミスをしかるべき天候基準として登山計画に落とし込むノウハウ

このパーティの実態に即して、いったいどのような天候であれば行動を見合わせるべきだったかの基準を示してはじめて、それが教訓として次の計画に活かされるというものです。その基準も現場で共有可能な指標でなければなりません。
風速何メートルとか雨量mmとかいう、現場でピンとこないような数値を基準にしてはならず、レインウエアのフードを頭からかぶって視界がさえぎられ、ときおりふらつくような風といった具合に、行動を阻害する具体的なニュアンスで記述する必要があります。


さきほど、例にあげたヒサゴ沼ないしヒサゴ沼分岐での気象条件の判断基準のサンプルをあげておきましょう。本報告書が認定した事実から得た教訓を活かすとすれば、私なら次の計画ではこう決めておく、という意味です。

ヒサゴ沼分岐での風:雨具のフードがばたつく
同地点の雨:ときおり叩きつける強い風雨もしくは継続的な大粒の雨
同地点朝の気温:10度以下
低気圧の通過ないし通過後
前日も雨天行動している

以上の条件がそろっていたら小屋への引き返しを決めます。
低体温症の知識も対処の経験もないパーティ(一般登山者は特にそうでしょう)の行動計画はこうして立案可能なのです。
さらに複数の人間で計画を検討する場合には、気温10度の根拠は?低気圧の通過とは具体的に天気図でいうとどういう気圧配置?、前日の雨の程度は?参考事例はあるか?などとお互いに議論し合い、納得できる基準に煮詰めていけばよいのです。

この実践的な基準を策定するときに重要なのは、現場で誰もが共有できる具体的な事実であることです。
風速XXmとか雨量何mmのように現場で計測できない事実は利用できません。
また、認知(Perception)を判断基準にしてはいけない、これも鉄則のひとつです。
具体的には、「体力を消耗している客がいる」という基準も緊急事態以外は避けたほうがいいです。一見よさそうですがダメです。
なぜなら、体力消耗は潜在化している場合があり、たまたま顕在化したケースだけを取り上げるべきではないし、体力の消耗の程度を計る指標が見た目の印象しかなく、ひとによって判断のばらつきが生じるからです。リーダー経験の豊富な人は異変に気がつき、鈍い人は気がつかない、という基準を設けてはいけません。体力の消耗・疲労蓄積は認知されようがされまいが一定の推定をしておくべきなのです。

こういった行動基準を事前に共有し、あいまいな点をこそぎ落とし、最後に整理するのがプランニングというプロセスです。あくまでプラグマティックに理解することによって現場の負担を軽減するのです。こうした考え方にたてば、例えば、人口に膾炙した「引き返す勇気」などという言葉がロマンチシズムの表明にすぎないことがわかるはずです。引き返しの判断は計画上の選択肢のひとつであって、突っ込みたいところをあえて堪える度量や経験知の問題ではないのです。第二次世界大戦末期に日本側の軍事作戦がことごとくアメリカに敗れ去ったのは、もちろん物量と技術力の差が圧倒的であったこともありますが、国民の犠牲が増えたのは間違いなく作戦のミスだったのであり、現場の司令官が無能だったからではありません。
それを天候判断ミスだね、なんであんなひどい天気で突っ込んだんだろうね そうだね、判断した人は未熟だね、なんて話をいつまでもしているから、駄目なのです。
交通事故を防止するのに、信号機と交通ルールを整備することをしないで運転手だけ鍛えてもムダなのです。鍛えられる運転手には限りがあります。

本報告書はきちんと旅行会社について事実を確認したのだろうか

報告書はこういった形での提言がなされなかったのみならず、実際の事故を起こしたツアー会社において、それをしていたのか、どの程度なされていたのか、それともしていなかったのか、その事実についてもあいまいな記述の仕方をしています。

そのために、スタッフ・ミーティングをしっかり行なうよう、会社としての指導が徹底されていたとは思えない。(P40)

などと報告者自身の憶測や認知を表明しているのはあきれます。それならば何の取材もせずに書けるブログでもできることです。いったい何を調査してきたのでしょうか。
企画会議の議事録の入手やインタビュー調査まで行ってほしかった。
事実を入手してはじめて意味のある提言ができるというものです。

装備や生活技術・行動技術の提言がない

また、計画において非常に大きなウエイトを占める構成要素に「装備」「食糧」がありますが、この報告書には、低体温症を防止するツールであるレインウエア自体や装備の管理や装備の戦略的な利用等についてほとんど言及がありません。
わずかに生存者の証言から、うっすら教訓を読み取ることはできますが、ここから読み取れた教訓はもっと明確に山での生活技術指針として提言に加えてもよかったはずです。例えば、行動中の体力消耗を避けるために雨具のポケットに食糧を準備していた生存者の証言は、単なる事実としてではなく、悪天候時に推奨されるべき行動だったのです。こうしたことは計画検討時にリーダーがパーティの動きを把握する際に留意するべき点としてリストアップされていなければならない点です。具体的には、リーダーには客の自己管理能力の弱点をサポートする義務があり、そのチェック項目を計画に組み込むことができるわけです。教訓を活かすというのはそういうことです。

遭難事故報告書は、登山計画から自然条件、気象条件、ガイドの経験・能力、参加者の装備、運動能力、技術・経験にいたるまで、計画立案時以上に詳細に調査しているのですから、本来あるべきだった計画案について提案してもよかったのではないでしょうか。

マニュアルを作成せよ、という提言は何も提言していないも同然

もちろん、報告書は何も提案していなかったわけではなく、これらの教訓を踏まえて業務マニュアル化するべし、と提言しています。マニュアルも解法のひとつでしょうけれども、マニュアルやガイドラインには盲点があります。一度作成してしまうと、それで満足してしまって一度も更新されずにやがて形骸化し、ついには放り出される危険性があることです。「おいガイドさん、行く前にガイド指針読んでおけよ。頼んだよ」みたいに、旅行会社が事実上の安全管理をガイド側に丸投げし、形骸化した状況になってしまえば機能不全というべきでしょう。もちろんマニュアルがあってもいいのですが、反復継続的に使用されるというサステナビリティを確保する仕掛けが必要です。この問題意識はもちろん、本報告書でも共有されていますが、しかし問題意識を述べたにとどまり、具体的な提言になっていない。

私は、土木や防災の分野で毎年労働災害が絶えない現場をみてきているので、そこでどのような安全管理対策がなされているかと比べると、登山の世界は本当に生ぬるいと思います。
ただ、JRの路線作業のように、作業当日に監督職員に作業留意事項を一字一句間違わずに伝達しなければ作業が中止になる、日勤教育も受ける、みたいな、それと同じスパルタな管理体制をとれ、といっているわけではありません。やはり分野が異なれば、方法が違って当然です。しかしながら、建設現場での事故防止のため、判断ミスをしない現場の人間の育成、経験豊富なリーダーの育成が重要だと主張したら、バカかお前はといわれるのではないかと思います。【人間はミスを犯す存在だ】という前提で安全管理体制を整備するはずです。

プロジェクトサイクルマネジメントと行動変容を引き起こすトリガー

登山の世界ではどうしたら安全が確保されるか。
その仕掛けとして、プロジェクトサイクルマネジメントが非常に有効だと思います。つまり、計画を立案する、という行為がつねに一定の間隔で意識される仕組みです。立案し、方法論を開発し、実行し、終わったらその総括をする、その総括をもとに前回の弱点を次の計画に反映する、というサイクルとして定着させてゆくのです。前回の行動記録を次のパーティに渡すというだけではだめです。次の計画自体が前回の教訓をビルトインしたものになっていなければ意味がありません。この報告書の提言部分に抜け落ちてしまっているのは、こうしたプロジェクトサイクルのうち、PlanningとDevelopmentのフェーズについてのフォローなのです。

さらに根本的なことをいえば、「じゃあ計画を立てましょう」とか「段取りしますか」というような、ある種の、行動を引き起こすための、トリガーが大切です。

ところが、日本語で事実上流通している、「登山計画」というニュアンスは、静的というか死んだニュアンスです。これから行動をはじめるというステップとしての動的なものではなく、消極的なニュアンスが強いです。よくあるコンテクストでいうと、「登山計画書の提出」という具合に、公共的な機関に救助されるかもれない前提で、行動概要を示す情報を提供し、いざとなったら助けてくださいね的な保険のニュアンスで「登山計画」という言葉が語られることが多いのです。

また、登山口や警察署などの登山計画書の様式は、一般登山者につぎのようなメタ・メッセージを与える恐れがあります。
「登山計画書」とは行動概要を示す一枚のペーパーのことである、それ以上でも以下でもない、と。

私はこういった現状は憂慮すべきことであり、改善されるべきだと思っています。
いってみれば、多くの人にドグマとして無自覚に共有されている受身の「計画」観念から脱却するべきなのです。

もし登山口や警察署においてあるような登山計画書が、各登山者の登山計画のレビューを促すように機能させるのであれば、一枚ではなく少なくとも2枚程度にし、一枚目を行動概要とし、二枚目にその時期の、その山域の登山で必要になりそうな項目を洗い出したチェックボックスを設け、ゲームのように点数をつけさせればよいと思います。

また登山口には、大きな看板を立て、ルート以外の情報(天候リスクや装備、中高年のよくある事故形態)をイラストでわかるように掲示するのも、計画をレビューさせる、ひとつのアイデアです。

計画から準備段階の共有

また、旅行会社においては、伊豆ハイキングクラブの生還事例から学ぶべきことは数多くあります。
そのひとつがツアーにおけるチームワークの欠如です。伊豆パーティが報告書にあるような共助(Mutual help)が可能だったのは、登山計画を企画段階から共有し、ともに準備してきた、お互いのコミュニケーションの風通しのよさだったといえそうです。
これをヒントに旅行会社には、いくつかのことを提案できそうです。
まず、登山企画への参与の仕掛けをつくれないでしょうか。
これまでのような登山プランの一方的な通告→契約という流れではなく、消費者の受身の姿勢をいかに変えるかがポイントです。パーティの一員である、という意識を事前に促すように交流掲示板を設けるというのも手です。例えば北海道大雪ツアー総合掲示板、という具合にスレッド式にします。案内や問い合わせはすべてその掲示板経由にしてしまうのです。


提言というのは、例えばこういうことをしたらどうか、というのが本当の提言です。永遠の課題だ(P43)、といってごまかすのは誠実とはいえません。
また、

(4)ツアー会社におけるガイド管理体制の確立が急務であろう。特に登山の安全性に配慮した「業務マニュアル」を作り、忠実に実行するよう徹底させるべき(P45)

なんていう中身のない提言は7月17日の時点でも既にいえたことであり、専門家でなくとも結果論から誰でもいえることです。
そうではなくて、ではどんなマニュアルが必要なのか、という点に言及するのが本当の意味でのアドバイスであり、提言であり、教訓の抽出であるはずです。
そこまで踏み込んでほしかった、というのが正直なところです。

また欲をいえば、この報告書が「中高年のためのトムラウシ山ガイドブック」として活かされることまで想定されれば、なおよかったかと思います。

旅行業界は身の丈にあった登山計画を

IMSAR-J - 「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウムの資料集配布
http://www.imsar-j.org/images/stories/tomuraushi_data6_12.pdf
において、マスコミの問いに対する、登山専門旅行会社の見解として、
アルパインツアーサービス株式会社の黒川社長が次のように述べています。

Q14.今回のような事故を繰り返さないために、旅行業界ではどう対応していきたいと考えているのか?
A. 2004 年6 月に発表している、「ツアー登山運行ガイドライン」を厳守することが遭難事故を予防することにつながると考えている。このガイドラインに書かれていることは、プロの登山リーダーから見れば当たり前のことばかりだ。このガイドラインに照らしても、なぜ、このような未曾有の遭難事件に拡大してしまったのか疑問が残る。
ガイドラインには、「参加者が余裕をもって行程を消化できる具体性のある計画」で「危急時における具体的対応ができること」としてある。言葉としては簡単だが、これを具体策として実現するには生半可な山の知識と経験ではできない。
重要な点は、「疲労困憊の参加者を漫然と歩行させないこと」ではないか。さらに、直前情報収集の重要点として、「出発数日前からの気象変化の予測」、「登山道の状況把握」、「ルート上の有人無人の山小屋利用の可能性の確認」がある。
ガイドラインがあるのだから、そこに書かれていることが自社でおこなわれているかを各社が徹底して検証し、不足があれば補わなければならない。

旅行業界が目標とする計画について十分な安全性を確保した計画を立案できないのであれば、高すぎる目標をさげるのがもっとも安全に資すると私は思います。
問題解決の道筋はつねに二通りしかないのです。
自分自身のキャパシティを上げるか、目標をさげるか。
2百名山や3百名山ツアーには、ヒヤヒヤものの企画がしばしばあります。
この際、身の丈を考えたら中止したほうがいい、と思うような企画も多いのではと思います。
つまり、企画そのものをやめる、というのもひとつの解決方法なのです。なにも優秀なガイドをそだてまっせ、というだけが解法ではありません。
本報告書も先の神戸のシンポジウムの資料も、この点に完全に目くらまし状態になっています。
というより、一流といわれる登山家もふくめてまともな計画策定をしたことがない人が多いから全くピンとこないのだろうと思います。人は経験を積めば積むほど経験知に頼り、初心を忘れる傾向にあるのです。そしていつしか自分の経験が認知バイアスとなり、状況を都合よく判断してしまう傾向を生みだし、事故を起こす。「ベテランがなぜ」というわけです。中高年の登山事故にも全く同じ構造がみられます。身体能力の過信です。ベテランであることときちんとした行動計画が立案できることは全く別の話なのです。

ガイドを質を高めれれば、ガイドが計画の不備を補完するので、旅行業界も安心して背伸びした計画を実施できる、という解決の道筋は、ガイドも旅行業界にぶら下がって共生関係を維持できる、つまりWin-Winの関係をあからさまに表明ないし追認するものです。
そこに置き去りにされているのは、参加する客の立場であり、近年急増する一般登山者の事故への処方なのです。

日本山岳サーチ・アンド・レスキュー研究機構は事故調査法の開発に着手するといっています。
それは大切なことですが、問題解決のフレームワークについて、横断的に他の分野を学ぶなど、もう少し腰をすえたレビューが必要です。山の世界の視野の狭さをまざまざとみせつけられた思いがします。

アミューズトラベル社への期待

最後に。
アミューズトラベル社は、昨年8月、事故の調査を日本山岳ガイド協会に委託し、こうして今、最終的な報告がなされました。
今度は、アミューズトラベル社が誠意をもって応答する番でしょう。
御社が擁する優秀なスタッフ陣を活用して、議論を重ね、ぜひ教訓をムダにしない努力を業界全体に広げてください。

この報告書の弱いところを繰り返し述べてきましたが、それでもこの報告には今までにないほど教訓がつまっており大変貴重です。
それを活かすことができるか、また同じ業界で悲劇を繰り返してしまうかは、御社の今後の対応にかかっています。
重石を背負った企業として責任を全うしてください。

日本山岳ガイド協会 トムラウシ山遭難事故最終報告書まとめる

日本山岳ガイド協会が3月1日にトムラウシ山遭難事故最終報告書(PDFファイル)を公開しました。
http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf


あの事故が発生してから8月中旬までの約一ヶ月の間、私は自分なりに考えた提言をこのブログにまとめてきました。
正直にいって、昨年の8月半ばくらいまでは心ここにあらずで仕事が手につかない日々がつづきました。
それほど思い入れのある北海道の山であったし、なにより事故を引き起こしたガイドスタッフの一人が大学のクラブを通じてよく知る人間でした(彼が山スキー部で私が山岳部と部室が隣だったのです)。

8月以来更新をやめてしまった理由のひとつには、当時書きたいことは山ほどあったのですが、思いがにじみ遅々として進まなまったというのがあります。
そして今改めて、報告書について少しでもコメントを残すべくエントリを起こしてみましたが、年度末の仕事に忙殺されてとても難しい状況です。

ですので、ざくっとした感想を述べるにとどめたく思います。

私が報告書に期待していたこと

上記報告書P36−P48に本遭難事故要因の検証と考察〜今後のガイド、旅行業界および登山界に対する提言が述べられています。そのほか運動生理学的な観点からみた本遭難の問題点と提言(P64〜)が本報告書の重要な核心部分になるように思えました。

いずれにしても、8月に私が当ブログで書きなぐった粗雑な提言からみると、はるかにきちんと考え抜かれたよくできた報告書であると思います。私がポイントとしてあげていた点はすべて網羅されていただけでなく、より具体的で正確な議論が展開されています。気象や運動生理学的な観点からの考察は大変有益でした。

また報告書P36-38ではリーダースタッフ間のコミュニケーション不足(リーダーシップとフォロファーシップ)について言及されており、報告書はこの欠如がこのパーティの命運を左右したと述べています。全くその通りという印象をもっています。

全体としては、事故の原因はガイドのリーダーシップの不足と危機管理能力の欠如によるものであり、提案として有能なガイド育成の仕組み作りを急ぐべきである、というのが報告書の骨子のようです。

ただひとつ残念な点をあげるとすれば、(というより私が本来このブログで目指そうとして頓挫した点だったのですが)各旅行会社が同様の縦走計画を立案するにあたり、教訓を活かし今後の参考となるような、具体的なモデルプランを提示してもらいたかったという気持ちがあります。

私は現場の判断ミスが起きにくい仕組みを計画段階でビルトインするべきだったと一貫して主張していますが、計画段階から事故を予防する仕掛けについては、この報告書は提言として、この点についてあまり重視されていないように思えました。これが残念な点でした。

私の主張をもう一度繰り返します。
登山計画というのは、地形、気象や運動生理学・医療その他の背景となるさまざまな知識を総動員したうえで、可能な限りシンプルな形にするのが非常に重要です。現場でのリーダースタッフの頭脳労働の負担を軽減する必要があるからです。

ですから例えば、天候悪化時の対応として小屋への引き返しという戦略ひとつとってみても、
その判断が必要となる理由を考えれば、少なくとも以下の項目について計画上明らかになっているのが効果的といえます。
1.行動を阻む要素(ここでは天候とします)
2.天候悪化の基準(行動可能な気象条件 例:実測気温、風上に顔をむけられない、ふらつくなど現場で具体的に共有しうるモノサシ)
3.行動変更の選択肢(引き返し、エスケープ、その場での停滞)
4.タイムリミット
5.最終判断地点
「どこで何時に何を最終判断しなさい」ということを計画に書き込めばリーダーは計画にのっとってしかるべきタイミングがきたら判断を迫られる仕掛けが自動的に出来上がるわけです。

天候による引き返し判断については、報告書でも言及されていました。

引き返すか、もしくは緊急避難路選択の判断をするなら、日本庭園までの間、すなわちロックガーデンを登り始める前がリミットだっただろう。(上記報告書P37)

と述べられていますが、この記述自体があいまいで、結局、リーダーはいつどこで何を基準に何についての判断をしなければいけない、といっているのか不明確です。(同じように、ガイドCが心積もりがあったという天人峡へのエスケープについても評価を濁しています。)この登山パーティのこの判断についていえば、最終判断地点は避難小屋であるべきだったと言い切ってしまってもよかったはずです。ラジオも持たず、当日の判断材料が極めて乏しい条件を考えれば、ロックガーデンまで最終判断ができないということ自体が計画上あってはならないと私なら考えます。もちろん最初の故障者が顕在化した地点が天沼付近だったので、結果から逆算すれば、ロックガーデン付近で引き返していれば故障者が現れることはなかったかもしれませんが、結果論というものでしょう。現実には日本庭園で暴風雨に晒されてまもなく故障者が顕在化した可能性だってあるわけですから。

ツアー企画会社に対する提言が具体性にかけている

また、報告書のこのあたりの記述には、この判断の問題をリーダーの能力の問題だけに落とし込んでしまう傾向がみてとれます。もちろん能力の問題でもありますが、現場判断のずさんさにだけスポットを当ててしまうと、「なぜリーダーは適切な判断をなしえなかったか」という問いをいつまでも循環することになり、結果論に陥りやすく非生産的だと私は思っています。リーダーが現場で判断すべき5W2Hについてはあらかじめ計画にインプットしておくことで判断漏れを未然に防止し、それこそが実質的な企画会社のツアーリーダーに対する監督部分にもなるからです。

本報告書は、このツアー企画の問題点について指摘していましたが、私には具体性に欠けるようにみえました。とくにP45-46の「ツアー登山旅行会社が取り組むべき問題点」については、問題点の列挙にとどまり、提言としては不十分なものでした。
例えばP45(4)ではガイド管理体制が不十分だから業務管理マニュアルを作成せよ、とありますが、これを提言というならあまりにお粗末です。どのような業務マニュアルを作成すべきかについて、もう少し具体的にアミューズトラベル社の実態に踏み込んだうえで、欠けている部分を指摘し、ありうべきモデルを提示すべきでしょう。報告書からアミューズトラベル社の通常業務の実態がいまひとつ見えてこなかったのは、消費者の立場からみて不満の残る報告書であるということはいえそうです。
もちろん報告書のページの都合もあるでしょうから、あまり欲張ったことはできないのかもしれませんし、モデルプラン自体も一人歩きしてしまう恐れがありますから、諸刃の剣であることは確かです。しかしながら、旅行会社がどのような計画作りをしていけばいいかのコンサルティング的な役割を多少とも果たしてもらいたかったというのが本音です。山岳ガイド協会は企画会社、ガイド、参加客のすべてにわたって調査する権限があったのだから、それゆえに、本来ありうべき7月14ー17日のトムラウシ山縦走の企画書を提示してもらいたかったように思います。本当はどうすべきだったのか。

私がブログで書ききれなかったくせにいうのもなんですが。

私個人はアミューズトラベルをひいき目にみているのかもしれませんが、私が知る数人の社員の方の能力と誠意ある仕事ぶりを思い起こすと、信頼回復のポテンシャルは高いとかたく信じています。
しかし、それまでにやるべきことは山ほどありそうです。

社内セミナーの開催

ひとつ提案したいのは、今回の事故報告書の事実経過および考察をたたき台にして、ツアーリーダーの間でシミュレーションスタディセミナーを開催してはいかがでしょうか。

「あなたは今7月16日早朝、3名のガイドと同じ条件下に置かれていたとします。
何についてどのように判断すべきことがありますか」
といった具合にブレーンストーミング的なスタンスで、忌憚ない意見を述べてもらうのです。

そうすれば現場でいかに判断すべきことが多いかについて思い当たり、それを事前の計画でいかに効率よく整理していくべきかに気がつくはずです。

このような事前学習方法は、旅行会社のみならず同好会や個人の登山者グループにも実践可能ですので、ぜひ試していただきたいと思います。

ツアー登山をめぐる利害関係者〜取りこぼされた一般登山者への提言

トムラウシ山はプロフェッショナルとしてのガイドなしでは登れない山なのだというのは誤解です。
事前の準備と必要な知識と能力さえあれば誰でも挑戦可能です。ガイド付にこしたことはありませんが、適切な判断能力をもちリーダーシップを発揮できる人間がいれば十分なのです。

私は7月の遭難が発生し、その後の報道を目にしたときに、一般登山者がトムラウシ山魔の山と恐れて寄り付かなくなるんじゃないかという懸念を覚えました。能力の劣ったガイドが引率すると悲惨な事故が起こる可能性があるとすると、知識も乏しい私たち素人にはとても無理だわ、という反応です。

しかし、一般登山者に理解してもらいたいのは、登山のリスクのかなりの部分は現場ではなく、計画上で未然に防ぐことができるということです。
例えば、現場で低体温症を判断するだけ知識も経験もない、としても、現場で低体温症を判断しなくてもいい天気基準を設定しうるのです。各種ガイド協会や旅行会社といった組織は一般登山者や消費者にとって、半ばパブリックなリソースです。旅行会社の立案やガイド(ないしガイドブック)の意見を参考に一般登山者は自分で判断基準を決めるのですから、モデルプランという考え方は、今後の事故防止に極めて有効だと私は思っているわけです。

登山の知識が少ない初心者自身についていえば、まず第一に心がけるべきことは「知らないことには手を出さない」です。初心というのは重要です。
またこれは企画会社も同様です。経験を積んだ人間より知らないことが多いからといって、チャレンジをやめる必要はないはずです。知らないならば知らないことを前提に計画を立てればよいだけの話です。低気圧の接近中は登山を見合わせる、と、たったこれだけでも立派な方針たりえます。(大津波警報がでたら避難指示を出す、みたいな話と同じで、人知を超えるような自然現象についてギリギリの判断基準などもたなくとも安全な判断は可能なのです)いいかえれば、高度な危機管理能力や経験を必要とせずとも貫徹できる計画をつくればよいのです。具体的には中止や撤退のタイミングをリスクの顕在化する前に設定すればよいのです。ギリギリまで危ないところまでいってしまうから、逆に危機管理能力が必要になってしまうわけです。

ともあれ、ハイキング業界に関わる人たちは、この報告書をもとに、特に北海道の登山についてより突っ込んだ議論を重ねてもらいたいと思います。

最後に。
同報告書は、もちろん登山企画の具体化も提案していますが、その提案自体が具体的ではないのは非常に残念でなりません。むしろ力点は、プロフェッショナル(ガイドやツアー企画会社)の育成にあるように感じました。
この傾向の背後には、恐らく、登山ツアーの利害関係者というのは、とりあえずの企画を旅行会社が作成し、それを現場にアウトソースしたガイドに投げて、あとは現場でなんとかやりくりしてもらう、といった既成の構図が前提にあるのかもしれません。あるいはこの構図を維持しようという力学がどこかで働いているのかもしれません。客がいつも客としてガイドについていくツアーだけを前提とすればこの報告書で十分(「ツアー登山客への要望」P47,48)なのでしょうけれども、一般登山者の問題について、報告書P43でちらっと

ツアー登山者を含む未組織登山者層をいかにして事故のない、安全な登山に導いていくかが、現在の登山界の大きな、そして永遠の課題となっている

とあっさりまとめている部分は私には違和感を覚えるところでした。
このことは、別の言い方をすれば、報告書は事故原因として現場の判断ミスを重視し、企画段階の問題を軽視しているともいえます。危機管理の経験のなさを重視するあまり、企画段階のずさんさへの言及があまりにも少ない報告書となっています。
また、ガイドに業務遂行の有形無形のプレッシャーを与えておきながら、ガイドに判断を委ねすぎている。ここに問題の本質があるのに、と思うとやるせない気持ちになります。

しかし私は防災という業界に生きていることもあり、業務の体制作りに真剣な提言がなされていない、この報告書の書きぶりについては違和感が強いです。なぜなら、災害の教訓は、例えば応急対応に携わる現場のリーダーの育成にはそれほど大きな重点は置かれず、むしろ、災害の対応などの手痛い教訓は、事前の準備不足の問題として、より緻密な地域防災計画に活かされる方向性があるからです。また住民については自助や共助が叫ばれ、行政に過度に依存するマインドから脱却しようとしているのが現在の日本の防災の段階です。というのも、防災分野では何十年に一度の大地震に対して、実戦経験を積んで危機対応のプロフェッショナルなリーダーを育成しようなどという話自体が現実離れしているからです。突然の危機に対して、人間は判断においても圧倒的に弱い存在であることを思い知らされるのが災害です。そうであれば事前にやるべきことを列挙しておく、計画を立てるという形で現場判断をサポートする方向が正しい道筋です。
参考までに最近書いた記事を紹介します。
http://d.hatena.ne.jp/mescalito/20100226/p1

私は防災も登山もリスクマネジメントという意味では同じ要素があると思っています。
プロフェッショナルの育成、それはそれで重要なことではありますが、しかしそれではツアー登山の第三の利害関係者である一般の登山者がこの問題から取り残されてしまうことも考慮するべきではないでしょうか。そんなことを強く感じます。
この報告書にあるように、永遠の課題かどうかは私にはなんともいえません。
ツアー登山業界が率先して予備日を持つなど安全な登山計画を公けにする、そしてそれを確実に実践する、というプロセスに一般登山者が関与することで彼らのマインドも高め、ひいいては能力の底上げに寄与するのではないかと思います。

大雪山遭難事故当日の事実経過について(アミューズトラベルの認識)

あの日からもう三週間もたつのですね。
私の心はいまだにあの岩だらけの登山道をさまよっているかのようです。

さて、最近までずいぶんお世話になった事故の考察サイトの北海道大雪山系 トムラウシ山 大量遭難を考える。 今回の事故について戸田新介様のご意見 と 幾つかのご回答 | 甲 武 相 山 の 旅
に、8月7日付のアミューズトラベル発信のFAXが添付されています。これは恐らく生還者の戸田さんに送付されたものを上記ウェブサイトにリークしたもののようです。
全文スキャンデータはこちら(ただしこれでオリジナルの全文なのかどうかは不明。文章が尻切れトンボな印象。)。
http://subeight.files.wordpress.com/2009/07/tomuraushi0716.jpg?w=600&h=1283

ここには、生存者およびガイドに聞き取りした公式見解としての事故経過が記されています。
恐らくツアー参加者および遺族向けに流したものでしょう。

この文書から読み取れるのは、松本さんの目撃談および主観、斐品さんが目撃した内容、そして多田ガイド(あるいは野首さんの目撃内容とも照らしたかもわかりません)です。またこれまでほとんど報道されることのなかったビバークした人たちの様子が記されています。

この文書は、会社関係者が上記の証言者からの聞き書きを再構成した体裁のようにみえます。しかしながら、これらの認識がどの証言により構成されているかのアナウンスがありませんので、これも推測でしかありません。ただし、戸田さんの証言(幾多の報道およびSub Eight証言)が反映されていないことは確かのようです。
この文書は戸田証言との一部事実の認識の違いを際立たせている箇所があります(とくに時間に関して)。
これもまた、事実経過に対するひとつの史観として参考に値する文書といえます。
ちょっと長いのですが転載したうえで、コメントしようと思います。

率直に言って、戸田証言では北沼で1時間半も待たされていたことになっていたので、その空白部分の解明が今後の課題だったのですが、この文書でいろいろな謎が少し氷解してきました。
しかしながら、同時に事故を起こした会社が発表する事実認識として、FAX三枚弱のこの内容は、報道で明らかになった事実(特に全体的として時刻の記述および松本ガイドの行動)についてさえも記述が乏しく、あまりにも不十分です。また今回のFAX送付にあたり、戸田証言はどうして採用されなかったのか、そのあたりも釈明が必要ではないでしょうか。
参考:生還者戸田新介さんとの一問一答

トムラウシ山の遭難事故の経過について

◎本件事故のご報告(本年8月7日時点における弊社の認識内容)

1.事故の概要

平成21年7月16日(木)弊社アミューズトラベル主催の登山ツアー「旭岳からトムラウシ山縦走」が開始された4日目、ツアー客15名と弊社ガイド3名の全員がヒサゴ沼避難小屋を出発し、北沼分岐を渡渉の後、前トム平に至る間に激しい風雨にさらされ、低体温症のためガイド1名、ご参加者7名が凍死する大量遭難となってしった事故です。最愛のご家族を亡くされたご遺族の皆様並びにご参加者の皆様に改めて心からお詫び申し上げる次第です。

2.事故発生までの行動
7月13日(月)各地ー千歳ー旭岳温泉

13時30分頃、新千歳空港でお客様と弊社ガイドが合流し出発、バスの中でガイドの多田は「アウトドア用品店アルペンにてガスを買うのでお客様も何か買うものがあれば」とご案内。バスの中での説明は多田からは行程の説明、同じくガイドの吉川より東大雪荘に郵送する荷物のご案内をする。途中、コンビニに立ち寄り行動食の買い出しをご案内。旭岳温泉白樺荘に17時前に到着。夕食時、吉川より翌日の行程につきご案内をする。食事後、部屋にてガイド3名に加えてポーター役のペンバの4名にて共同装備の仕分けをする。松本は4人用テント2張と銀マット7枚、ペンバは10人用テント1張、多田は大鍋とガスヘッド2個とガス、吉川は小鍋とした。テレビの天気予報では翌日の天候は良いが、15,16日は崩れるとの予報。

7月14日(火)旭岳温泉ー旭岳ー白雲岳避難小屋

午前5時50分に予定通り宿を出発し、旭岳ロープウェイにて姿見駅に到着。降雨は無いが風が強くガスがかかる。体操をして出発、旭岳山頂近くになり、ガスが晴れ、風も弱まった。白雲岳登頂後、白雲岳避難小屋へ、ガイドたちはお湯を沸かして各自夕食を済ませてもらう。多田は携帯の天気サイトで上川地方の天気図を確認、翌日午後に寒冷前線が通過し、雷の心配があるので出発時間を30分早めるようにと提言。

7月15日(水)白雲岳避難小屋ーヒサゴ沼避難小屋

5時過ぎに出発。風はないが朝から雨。登山道には泥や水溜りが多く、水を選んで歩くので時間がかかる。歩くペースは遅いが、休憩時間を短めにしたので15時前頃にはヒサゴ沼避難小屋に到着。小屋は当ツアー関係者19名と他に6名の登山パーティとご夫婦1組が宿泊。ガイドがお湯を沸かし各自で夕食を済ませてもらう。翌日の天気について前日の天気予報から、多田は午前中までは崩れるが午後からは大丈夫と予想。

3.事故当日の行動について
7月16日(木)ヒサゴ沼避難小屋ー北沼分岐ー前トム平

雪渓上で風に曝されることを避けるため出発を30分遅らせ、午前5時30分に出発。雪渓があるのでアイゼンを装着。ペンバとは雪渓上部で別れ、岩場を通過し稜線に出る。風は強かったが登山道は昨日程水浸しではない。天沼手前と天沼付近で休憩。さらに日本庭園付近で休憩していると同じ山小屋にいた6人パーティが追い抜いて行く。
ロックガーデンに出ると物凄い風となった(松本談)。この頃からお客様の歩行状態にばらつきがでる。北沼分岐手前において北沼からの流水が氾濫して幅2mほどの川になる。膝下くらいの流れの中で多田と松本がお客様をサポートして対岸に渡す。松本はお客様がふらついた拍子に転倒し全身を濡らす。渡渉後に川角様がぐったりした様子だったので松本が介抱する。暖かい紅茶を飲ませたが、目を閉じたので大きな声をかけて励ます。ここでお客様の中から、「これは遭難だから早く救助を要請してくれ」などとガイドに対する申し出があった。渡渉と川角様の介護で他のメンバーも時間にして30分は行動を停滞させた。多田は、川角様と吉川、松本を残して本隊と歩き始めたが、雪渓手前で人数を確認すると2名足りなくて最後尾は松本だった。松本に、少し先に風をしのげる場所があるので本隊はそこで待つように指示して、多田は北沼分岐に戻ると植原様と石原様が残っていた。一人ずつ交互に背負って何度かピストンして雪渓を登りきると、市川様と市川様を介護している野首様がいた。多田は、雪渓上部の2,3分先で待っていた本隊に追いつき、行動不能の人はビバークし、松本は動けるお客様10人を連れて下山するよう指示する。又、同所の少し先にトムラウシ分岐があるので下山方向を間違わないように、同分岐で10人を連れて下山するようにとも指示した。松本は歩き出し、ゆっくりとしたペースでトムラウシ分岐に15〜20分程度で到着したが、点呼したら8名しかいなかった。当時の松本は前述の転倒で極限状態にあり2名を探しに行く精神力も体力も残されていなかった。松本は8名のお客様にこの道標に向かって下山してくださいと伝えて、救助の電話をする一心だけで歩き始めた。前トム平を少し下った所で前田様が電波が通じると言ったので110番してくださいと頼んだ。警察には4名以上自力で下山できないので救助を要請します(15時54分)と話したが、後はよく覚えていない。電話がすみ、先に下山するように伝える。意識が戻ったのは病院だった。

トムラウシ分岐の少し手前で後れた2人は木村様と斐品様で、松本が先頭で歩き始めてトムラウシ分岐手前5分の所で木村様がふらつき、斐品様は木村様を介護したが木村様は意識をなくした。斐品様が、下山を続けるとさらに動けない状態の味田様と竹内様を見つける。2人を必死に介護するがその甲斐なく意識をなくされたのでその場を離れる(13時40分)。斐品様がさらに下山すると真鍋様とシュラフに包まれた岡様と出会う。真鍋様は元気な様子だったが、この場所を離れたくないと話され、無理強いはせずに下山を続ける。

一方、多田は歩けないお客様の所へ戻り、唯一行動に支障のない野首様に手伝ってもらいツエルトの中に動けない3人を入れて体をさすり保温に努めた。多田はさらに救助要請のために携帯の電波が届く場所を探し南沼キャンプ地方面へ歩く。16時49分にメールを送信する。その先少し歩くと木村様が一人うずくまっていた。その先に青いビニールシートの塊があり、中にテント、毛布、ガスコンロを見つける。木村様に毛布をかけ、ビバーク地点へ戻る。野首様に手伝っていただきテントを立てお湯を沸かす。しかし、植原様の意識がなくなる。市川様には体温が伝わるように抱きかかえた。飲料水が少なくなったので南沼方面に再度行き、携帯で電話して19時10分に本社松下と警察と話す。テントに戻ると市川様の意識はなかった。

アミューズ見解についてのコメント

これまでの報道と戸田さんや前田さんを中心とした生還者の証言から強く推認していた事実の一部が崩れました。別段、驚くべきことではありません。

5点ほどあります。

まず第一に、最初の故障者

最初の故障者は、戸田新証言から、初日から体調を崩していた植原さんと推認していましたがこれは誤りで川角さんのようです。したがって第二ビバーク地に滞在していたのは、多田ガイド、野首さん、石原さん、植原さん、市川さんということのようです。また、ビバーク決定時に、テントを張ったという事実はありませんでした。少なくとも3人をどうにか収容できるツエルトの設営だったようです。
そもそも初期報道では、

ガイド3人が協議し、死亡した吉川寛さん(61)=広島県廿日市市=と多田学央さん(32)が、客5人とテントを張って残ることを決断。多田さんは松本仁さん(38)に「10人を下まで連れて行ってくれ」と頼んだ。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/disaster/090723/dst0907231350013-n2.htm

とありましたが、これは会社の説明によると、テントという報道は誤りということになります。
また、3名が協議したかどうか(どこで協議したのかを含めて)は会社側発表からはうかがい知れません。

第二ビバークに使用されたテント

第二点目として、第二ビバーク地点で張られたコールマンの大型テントはパーティが持参していたものと認識していましたが、南沼キャン地に残置してあった他人のものを拾ってきたことが明らかになりました。また、幕営時刻も、少なくとも16時49分のメール送信後であることがわかりました。
それまでは3名ないし4名でツエルトにくるまっていた可能性があります。
会社側文書によれば、野首さんはご自身の体調に異常がないにもかかわらず仲間のためにビバークし、多田ガイドの補佐に回る決断をしているように伺えます。
ツエルトのサイズがわかりません。しかし、初日仕分けした共同装備リストにない装備です。多田ガイドが個人装備としてもっていたとすれば、五人収容できるものであったかどうかは疑問が残ります。

第二ビバークに使用されたツエルト

第三点目として、この文書からは第一ビバーク組にあてがわれたツエルト等の記載がありません。
それどころか、川角さんが倒れて吉川さんが居残ることになった時点でぷっつり情報が途絶えています。これまでは、野首さん所有のツエルトを第一ビバーク組に貸与したと推認していましたが、この事実について、会社の認識が不明となりました。この点をもう少し解明する必要があります。

遭難時刻

第四に、出発時刻について。
斐品さんは、13時40分に味田さんと竹内さんを発見したとされています。味田さんと竹内さんの遭難地点は前トム平とされていますので、これは戸田証言の出発時刻13時30分頃とは大きく食い違う事実です。戸田さんは時刻についてはたびたび修正し自信のない発言をしていますので、さしあたり両者の証言を合成した推理をしてみます。

また、戸田さんが「遭難と認めて救助を要請してくれ」と申し出た時点から30分の停滞とありますので、会社側としては、北沼渡渉した30分後に16名が出発したという認識になります。
すなわち第一ビバーク地からの出発時刻は、戸田証言の11時北沼横断とすると、11時30分となります。
戸田証言にある1時間半の空白は次のように解釈できそうです。
11時半に出発直後、2名が脱落したので、また隊列をとめた。多田ガイドは2名を背負って雪渓(登り)
を往復した。雪渓の対処が終わると市川さんが脱落していた。ここで多田ガイドは、第二ビバークの決断をし、10名を下山させる指示を松本ガイドに出します。戸田証言でいう待たされた時間というのは、多田ガイドが2名を背負って雪渓を登っていた時間だったのです。
松本ガイドに下山の指示を出した時刻は残念ながら不明のままです(大変残念ながら)。しかし、斐品さんのご記憶によれば13時40分には前トム平付近に到着していることになり、味田さん竹内さんがトムラウシ分岐を出発した時刻は、少なくとも1時間以上はさかのぼって12時20〜30分前後ごろとみるべきでしょう。つまり多田ガイドが石原さんと植原さんを背負って風の弱いところまで運ぶのに要した時間は約1時間と推定されます。そうすると、前述の30分とあわせて合計90分。戸田さんの1時間半待たされたという記憶と合致してきます。(ただ、この雪渓対処の時間は、もう少し少なめに見積もってもいいかもしれません)

(追記:遭難時刻については、斐品さん前トム平着が早すぎる印象。なので再検討します。8月11日)

天気判断の根拠

最後に、天候判断について。
当初、私は何の根拠もなく、当日の朝の天候も悪く、念のためラジオ発表を聞くために、30分間、出発の時間を遅らせたのではないかと勝手に想像していましたが、30分出発時刻をずらしたのは、雪渓での強風を心配したためでした。会社側発表によれば、前日の夕刻の予報をもとに16日の天候を判断した疑いがあります。これは多田くんが正直に証言したものと思われます。

そのほか浮かび上がってきた事実

雪渓の存在

北沼渡渉後に雪渓が出てくるとは。。たぶんほんのわずかの解け残りでしょう。

最終日の共同装備の大半を小屋に残置した疑いがあること

遭難パーティのうち少なくとも多田ガイドと吉川ガイドは、事故当日、コンロもテントも持っていなかった疑いがあります。残るは松本ガイドだが可能性は低いだろう。

どこでどの時点で誰がどのように行動できなくなったのか
・最初の故障者:川角さん(吉川ガイドとツエルトビバーク

故障者目撃時の様子:渡渉後ぐったりする。お茶を飲ますも目を閉じる。
推定遭難場所1:北沼の渡渉後すぐの地点(北沼分岐手前)
推定遭難時刻:11時ごろ(ソース:戸田証言19加味)
推定ビバーク地:遭難場所1付近
推定原因:激しい風雨の連続行動(5時間30分)+膝下の渡渉

・2、3人目の故障者:植原さんと石原さん(多田ガイド+野首さんとビバーク

故障者目撃時の様子:自力の行動不能
推定遭難場所2:上記遭難場所1付近
推定遭難時刻:11時30分ごろ(ソース:会社発表+戸田証言19加味)
推定ビバーク地:北沼分岐の少し先(遭難場所1より雪渓を越えて先に進んだ地点 12時20〜30分頃ビバーク開始)
推定原因:激しい風雨の連続行動(5時間30分)+膝下の渡渉+30分間の待機による体力消耗

・4人目の故障者:市川さん(多田ガイド+野首さんとビバーク

故障者目撃時の様子:行動不能(野首さんが付き添う)
推定遭難場所3:北沼分岐の少し先(雪渓を登りきった地点)
推定遭難時刻:12時20〜30分ごろ(ソース:斐品さんの行動から逆算してスワン推定)要再検討
推定ビバーク地:北沼分岐の少し先
推定原因:激しい風雨の連続行動(5時間30分)+膝下の渡渉+30分間の待機による体力消耗+1時間の現場待機による体力消耗

・5人目の故障者:木村さん(17時ごろより単独毛布ビバーク

故障者目撃時の様子:歩行中にふらつく。斐品さんが介護するが意識を失う(12時50分ごろ)。16時50分過ぎにうずくまっているところを多田ガイドにより再発見され、毛布をかけられる。
推定遭難場所4:トムラウシ分岐まで約5分ほど手前の地点(南沼付近)
推定遭難時刻:12時30〜50分ごろ(ソース:斐品さんの行動から逆算してスワン推定)要再検討
推定原因:激しい風雨の連続行動(5時間30分)+膝下の渡渉+30分間の待機による体力消耗+1時間の現場待機による体力消耗+疲労α

・6、7人目の故障者:味田さん、竹内さん(ビバーク状態不明)

故障者目撃時の様子:斐品山発見時は動けない状態。斐品さんが介護するも13時40分ごろまでに意識を失う。時間的に少し前に長田さんと戸田さんが雪渓のサポートした形跡あり(サンケイ報道)。
推定遭難場所5:前トム平手前か前トム平付近(正確な場所は不明)
推定遭難時刻:13時40分より前(戸田さん、長田さん通過時)要再検討

・8人目の故障者:岡さん(真鍋さんに付き添われシュラフビバーク

故障者目撃時の様子:真鍋さんに付き添われシュラフに包まっている(斐品さん証言)。サンケイ報道によれば長田さん戸田さん通過時点では「介抱していた」と表現されており、まだシュラフは登場していない模様。
推定遭難場所6:前トム平付近(正確な場所は不明)
推定遭難時刻:13時40分より後(ソース:会社発表)要再検討
推定原因:激しい風雨の連続行動(5時間30分)+膝下の渡渉+30分間の待機による体力消耗+1時間の現場待機による体力消耗+疲労α

・9人目の故障者:松本ガイド(ハイマツの陰でビバーク

故障者目撃時の様子:風を避けるようにハイマツの陰で動けない状態。
推定遭難場所7:コマドリ沢下部(ソース:あまたの報道)
推定遭難時刻:16時ごろ(前田さんの下山を見届けた時点を遭難時とすれば。)
推定原因:北沼渡渉の際の濡れ+連続行動による疲労

不明だった松本ガイドと多田ガイドの行動の一部

会社発表によれば、第一の故障者が発生した時点での2人の行動は次のように記されています。

多田は、川角様と吉川、松本を残して本隊と歩き始めたが、雪渓手前で人数を確認すると2名足りなくて最後尾は松本だった。松本に、少し先に風をしのげる場所があるので本隊はそこで待つように指示して、多田は北沼分岐に戻ると植原様と石原様が残っていた。一人ずつ交互に背負って何度かピストンして雪渓を登りきる・・・後略・・・

北沼のほとりで、1人目の故障者の付き添いのため、吉川ガイドとともに3人で居残るはずだったのに、多田ガイドが出発すると、松本ガイドがなぜか最後尾についてきています。そのうえ、2人の客を置いてきてしまっている、と読むことができます。最後尾の松本ガイドが確認に戻らず、多田ガイドが確認のため戻ります。取り残された植原さんと石原さんを背負ったのは、雪渓を上りあがる行動技術を失っていると多田ガイドが判断したからでしょう。しかし背負ったのは松本ガイドではなく多田ガイドでした。多田ガイドが雪渓を往復し、故障者を隊列に戻します。
他方、松本ガイドは雪渓をあがったところで客と待機しています。と、こんな経緯が伺えます。
これを素直によむかぎり、松本ガイドは思考が止まっているかのようです。多田ガイドは松本ガイドがやるべき仕事を全部やっていた、そんな感じにみえます。

第二に、多田ガイドがトムラウシ分岐で10名確認してほしいと指示したあと、8名しか確認していないのに再出発したことが伺えます。松本ガイドは救助連絡のためと説明しています。
上記の会社FAXでは、松本ガイドは全身ずぶ濡れで極限状態にあったと記されています。
それを裏付けるような迷走ぶりを感じませんか。

野首さんと真鍋さんの行動

戸田さんの証言によれば野首さんも体調の不良を訴えていた、とありますが、多田ガイドとテントを張るのを手伝うなどしています。会社発表の文書を読むと、体調はよかったが故障者の救援活動のために自発的に居残ったようにみえます。
また真鍋さんについても、恐らく最後まで一緒に歩いていた岡さんや、もしかしたらあとから歩いてくるかもしれない味田さん竹内さんの安否を心配して前トム平付近でビバークを決意したようにみえます。あまり主観的な表現は慎むべきかもしれませんが、正直なところ、胸をうたれます。

出発時の共同装備と遭難時の装備
・出発時

松本は4人用テント2張と銀マット7枚、ペンバは10人用テント1張、多田は大鍋とガスヘッド2個とガス、吉川は小鍋

通信機の類は見当たりません。

ビバーク時(遭難時)

ツエルト1、ガス缶の残り、鍋はもっていたものと思われます。
肝心のテントですが、もし16日も持参していたとすれば、誰がもっていたか、なぜ使用しなかったかがの疑問に答えることが難しく、小屋においてきたと強く推認されます。
のちに、コールマンテントとガスコンロが南沼で調達されます。

通信環境

少なくとも16時49分時点、19時10分時点で南沼付近(トムラウシ分岐付近)で携帯通話・メールともに通信可能な様子が伺えます。松本ガイドが通過時点ではどうであったかは不明。多田ガイドが連絡を取った場所は、午後にも松本ガイドが8名を確認した場所とほぼ同一の場所です。松本ガイドはそのとき圏外と確認したのでしょうか。さしあたり圏外であったと推認しておきますが、全身ずぶ濡れ状態で極限状態にあったとされる松本ガイドが通信環境の確認を怠った可能性も強く疑われます。(もちろん、全身を濡らしたとの記述自体を疑う余地もありますが、戸田証言では’背中を濡らした’ですので背中が濡れるようなすっ転び方をすればたいてい全身ずぶ濡れでしょう。)

ヒサゴ沼避難小屋の宿泊者

小屋は当ツアー関係者19名と他に6名の登山パーティとご夫婦1組が宿泊。

ここには、南沼付近で遭難した単独登山者竹内氏は含まれていない様子。
また夫婦1組の当日の行動も明らかではありません。
別ルートを下山したか停滞した可能性が高いのですが、もしこのウェブサイトをご覧になっていたら、情報をお寄せいただけると幸いです。

会社発表が語らなかった事実

吉川ガイドのビバーク体制とその経緯・判断
松本ガイドの下山行動記録
自力下山者の行動記録
事故当日の行動のタイムライン、場所
事故前日の小屋の様子
報道されている体調不良者の様子

アミューズトラベルへの苦言

事故報告(速報でよい)を体裁を整えてする時期では?

今後のツアー登山はどうあるべきか〜参加者の問題 その3

前回まで、
トムラウシ遭難の教訓1〜ツアー企画の問題点 - + C amp 4 +
において、ツアーを企画する会社側の問題点について考え、
トムラウシ遭難の教訓2〜ツアーガイドの問題 - + C amp 4 +
において、ツアー会社が実際の登山運営管理を委託するガイドの側の問題に触れました。

ツアー会社のエントリの結論は、ちゃんと企画書をつくって共有しろ、です。
ガイドについてのエントリでは、ガイドの資質の分析とそれをどう向上させるべきかについて今後の課題を述べました。


さて、今回は、ツアーに参加する客の問題について考えます。

Preface

ツアー会社、ガイドとともに、ツアー登山そのものを成立させている第三の当事者が客です。
客がいなければツアーは成り立ちません。
まず第一に、自力で歩きとおす登山者としての資質、続いてツアー企画に参加する消費者という属性、の2つの側面から考えたい。

大雪山遭難事故の生還者の一人は次のように語っています。

登山歴16年で、月4回は広島県内外の山に登るが「初めての山のプラン作成や道案内は人に頼るしかなく、ツアーをよく利用している」と中高年登山愛好者の実情を代弁する。今回の事故ではガイドの状況判断に疑問が残る。一方で「主催者側だけの責任でもない。今後は、歩くのは自分という自覚をさらに強く持ちたい」と誓う。地域・写真ニュース | 中国新聞アルファ

登山愛好家が営業ツアーと接点を持つのは、自分で登山を企画したいが、未知の山域では、登山計画作成やルートに不安を覚えるという理由があるようです。
さらにもうひとつの理由として、ツアーに参加すれば、個人では煩雑な交通手段や宿の手配などの雑務をまとめてやってもらえるのも利点です。とりわけ本州から北海道へ登山しようと思うと、手配の壁は心理的にも大きいものです。

登山者としての客

確かに道外からの登山愛好家が北海道の山に登りたいと思ったときに、北海道の山は本州九州などの山と比べると、ルートの情報も少なく、登山者向けの整備ができていないなど不便です。そうすると、本来ならば、ツアーに頼らずに自力で山に登りたいと思っていても、手ごろなツアーがあれば、計画も自分でたてる必要がなく、宿や車の手配も必要がないので好都合ということになるでしょう。
しかし、そもそも山に登るツアーに参加するということは、何もかもお任せするということではなく最終的には自分で最後まで歩くということです。計画作りやガイドと手配はお任せする。しかし歩くのは自分自身です。生還者の一人はこの点を強調しているようにもみえました。何が彼女をこのように誓わせたのでしょうか。

歩くのは自分自身

私の想像ですが、生還者のこの女性は、遭難発生後、仲間が次々に倒れ、ほとんどの客が下山できなくなったこの事態を招いたガイドの判断を疑問に思いつつも、何か想定外の事態が発生したときでも、最後は自分の身を守るのは結局のところ自分自身しかない。自力で最後まで歩ききる、生還してくるだけの基礎的な力は必要なのではないかと考えているのではないかと思います。もちろん、このような厳しい気象遭難に備えて自力で帰れる能力が必要という意味ではありません。しかし松本ガイドに必死についていくもブッチ切られて、自分の身を守るのは最終的には自分だという自覚が彼女の下山への意思と行動を支えたのではないでしょうか。

遭難パーティの自力下山者に共通するのは、自分の身は自分で守るというサバイバル術が彼らの行動を支えていたということです。生還者の戸田新助さんは、自分の判断で防寒着を身に着けたり、雨具のポケットの中に行動食を詰め込んでいました。また、前田さんは16日の出発前、タオルの真ん中に首を通す穴を空け、シャツの上にまとったといいます。

ツアー登山を度外視していえば、旭岳〜トムラウシ山の縦走コースをただ歩いてリーダーについてくるだけの最低限の行動能力はどの程度かを考えたときに、上記の生還者の証言は非常に考えされれます。

トムラウシ山登山に最低限必要な自己管理能力

ツアー登山や一般登山にかかわりなく、旭岳からトムラウシ山を縦走する登山者に必要な行動能力としては、三日間歩きとおす体力もさることながら、ある程度の自己管理能力が必要ではないかと思います。
上記記事の生還者の前田さんは前の晩、小屋で睡眠導入剤を服用したといいます。これも自己管理のひとつです。睡眠導入剤の服用ひとつとっても、山小屋にはじめて泊まるといった人は普段の下界と同じ量か、もしくは医師に相談せずに、眠れないと困るという不安に駆られて平素より多目に錠剤を服用してしまうケースがあります。多目に服用した結果、翌朝まで薬剤の影響が残り、フラフラになっているのを目撃したことがあります。恐らく前田さんはこの分量についてのわきまえがあったのかもしれません。

山小屋では他人のいびきや物音、たまたま陣取った環境などで眠れないことがしばしばあります。
しかし、それはありうることとして当たり前のことだと思わなくてはなりません。また北海道の山小屋が本州の営業山小屋と根本的に異なることも重要な条件です。管理人がおらず、暖をとるスペースが存在しません。雨の日には床が雨具から垂れた雫でびしょびしょになります。
そうすると、この点だけとらえても、少なくとも次のことがいえます。

2泊3日の山小屋泊ツアーに参加する登山者の最低限の行動能力のひとつは、眠りが浅く、場合によってはほとんど眠れていない状態でも3日間歩きとおせる力ということになります。また装備をぬらさずにパッキングする能力です。
どうですか?とても過酷な条件だと思いませんか。しかし実際には、あまたの夜行日帰りツアーが強行されているように、かなりの高齢者でも一日くらいは寝なくても平気で歩ける場合があります。
つまり、もっと一般登山者にわかりやすいたとえを使うならば、バスの夜行日帰りツアーを2日連続でこなすだけの体力があるかどうかを自問する必要があります。

またどんなに良好な天気を狙ったとしても、一日の行動が長くなれば、天候が急変して悪天につかまるケースが一度や二度はでてきます。
また停滞する前に低気圧につかまってしまえば、悪天行動をせざるを得ません。そのときに、防寒具をすぐに取り出せるようにザックの中にしまっておくとか、自分で雨具を着用し、フードをかぶり、休憩する場所がない場合でも、自分の判断で歩きながら行動食を口にいれることができるなどといった自己防衛能力が必要です。

トムラウシ山遭難についていえば、もちろんガイドの判断ミスが多くの命を奪ったことは間違いないでしょう。また、ガイドは客の自己管理についても可能な限り、指示を出す必要がありました。しかし、それにもおのずと限界があります。最終的に生死をわけたのは、ガイドの指示の悪さや、たまたま自分の立っていた位置などの運不運もあったでしょうが、最後は、どこまで自分自身を守れるかという自己管理能力の差だったかもしれない。前田さんはそういうことを生還者として感じとったのではないでしょうか。

消費者としての客

次に、消費者としての客の立場を考えてみたい。

参加条件

まず会社側からの視点で分析します。
会社がトムラウシ山縦走ツアー登山を企画する場合、少なくとも悪天行動と避難小屋泊の経験など上述したような最低限必要な能力水準を参加条件に示す必要があるでしょう。この参加条件は、もう少し具体的に必要な能力をブレイクダウンするのがベターといえます。これは参加希望者と電話面談で確認する程度になるでしょうけれども、出来れば書面で質問書を作成し、データを管理するほうがリピータの管理にもなります。
従来のツアーのように、年齢確認と山行経験のCVリストだけでは顧客のプロフィール確認としては不十分といえます。個別のツアー企画に即した参加条件テンプレートを作成し、山行報告をフィードバックできるデータベースを共有する必要があります。

しかし、現実の参加者が参加条件をクリアしているかどうかを確かめることのできる完璧な面談などできようはずがありません。登山経験を外部化することほど難しいものはないのです。
ツアー会社がオフィスで客に対してどんなに説明をつくしても、実際に山に入れば、客は自分が想定していた条件と違った!といったギャップは必ずでてきます。事前の申し込み段階で完全に把握するのは非現実的です。

そうなると、参加条件は、そういった不確定要素もふまえたうえで、より安全側にたった絞込みをするのが合理的ということになります。

提案

まず以下の項目を担当者が入力し、カウンセリングをはじめます。

・年齢・性別・身長・体重・登山経歴・雨天行動経験・長時間行動経験・避難小屋経験・他の季節の登山経験・年間山行日数・雪渓登降経験・高度障害の経験・所有装備・食料計画・歩行スピード・最近の登山はどこで何日前か・普段のトレーニングの有無・身体的弱点・既往症・常用薬

これらの情報のうちいくつかは定量的な基準を与えてチャート化し、申込者の行動レベルをランク付けしていきます。
例えば、年齢が70歳を越えていれば0点、雨天行動経験が1回であれば1点など。
また所有装備などは、漏れがないかどうか再確認します。

ツアー会社およびガイドの責任

さて、いったん以上のような参加条件を規定したうえで、客の申し込みを受諾した場合には、ツアー会社が責任をもってガイドに対してツアー中の客の行動の管理監督させなければなければならないでしょう。
前々回に、会社は登山の企画書をガイドと共有すべきだと述べましたが、客の管理の観点からも、ツアー会社は、客が参加条件を満たしていたかどうかを書面で確認するほうが安全です。

顧客の情報のマネジメント

ツアー会社の現状がいまひとつわかりませんので、いきなり結論からいいますが、安全管理の観点から、現状顧客情報は山行報告をフィードバックして更新・共有するシステムを確立するべきです。
少なくとも登山中のリスクマネジメントの観点からは、ガイドが、参加者の情報を事前に把握することが非常に重要です。
いいかえれば、安全管理の観点から、参加者の経歴を事前に会社とガイドの間で共有されるシステムを構築するべきです。

客の自己責任論

次に客側の視点で考察します。
ではツアー会社に示された企画書(装備・行程・進め方・登山の危険)や参加条件を理解したうえで申し込みしたのだから、装備や体力など自己の行動については自らが責任を負うべきだというべきなのでしょうか。

私は、その責任が成り立つためには、ツアー会社の説明内容がパーフェクトであり、かつ消費者にそれを理解する能力が合った場合に限られるのではないかと思います。
すなわち、たとえ客が参加条件の質問書に対してあいまいな答えをしたり事実と異なる回答をした場合でも、それだけをもって客の自己責任というべきではありません。なぜなら、ツアー会社がどんなにルートや天候・必要とされる能力水準などの情報提供をしたとしても、それはあくまで消費者がツアー選択する際の判断の一助にしかならないからです。それが事故の際の言い訳になりえるわけではないのはいうまでありません。

会社ないしガイドと消費者との間では、情報量と分析力・技術・判断力すべてにおいて対等ではないというべきです。つまり、会社は一部のお客さんがうっかり間違えて自分の能力を超えた過酷なツアーに申し込んでしまった場合でも、参加を認めるかどうかの判断を含めて、適切に安全に配慮する義務があるはずです。あるいは、途中で体調を崩してしまい、自分自身で適切な自己管理をしたいのは山々だか、自分の不調のためにパーティ全体に迷惑がかかることを思うと、誰にも不調を言い出せないといった状況は現実にありえます。その結果をツアー参加者の自己責任に負わせることは不合理というべきでしょう。

まとめ〜消費者側のリタラシー

消費者は賢くあるべきです。
きちんとしたマネジメントが出来ているツアー会社を選ぶ知恵が必要です。
そのためには、会社やガイドが本来どのような業務を行うべきなのかについて、ある程度の予備知識を持っているほうがいいと思います。
また消費者であると同時に、歩くのは結局自分自身だという自覚も当然求められます。法的責任は会社やガイドが負うでしょうが、甘い考えで登れば損をするのは結局は自分自身にほかなりません。

しかしながら、現実はきわめてお粗末な状況と推察されます。
客の意識は決して高いとはいえませんし、客の意識の低さが事故の誘因になっていることはいうまでもないことです。しかし、意識啓発のボトムアップ戦略は一体誰が啓発活動をするのかを考えれば一定の限界があるというべきです。
また多くの会社の管理体制は極めてお粗末というべきでしょう。アミューズトラベルだけが突出してお粗末だったわけではないはずです。

もちろん、上記に提案した対応がベストとはいえませんが、現実のツアー会社がこのレベルまで達しているかというと、私が知る限りにおいては、ごく少数ではないかと思います。
また会社はこれまでほとんどの場合で、ツアー会社の企画とガイドの資質、客の能力などの条件がすべて悪条件を重ねたことがほとんどなかったために、たまたま悲惨な事故を免れ、ニアミスですんできたのでしょう。そのため、成功していると勘違いしたまま、お粗末であったという認識すらないのではないでしょうか。しかし、条件が重ねればどこの会社でも起こりうる事故ではなかったでしょうか。

会社もガイドも、本来の業務分担がどうあるべきかを真剣に考えるときがきていると思います。

今後のツアー登山はどうあるべきか〜ツアーガイドの問題 その2

ツアー登山の課題〜ガイドの資質について

前回は、自分自身の過去の経験を踏まえて、ツアー会社がとくにプランニングにおいてマネジメント能力を強化すべきだという意見を述べました。
計画ないし業務指示書がしっかり立てれられていれば、ガイドの負担は軽減されます。
次に、ツアー会社からアウトソーシングされるガイドの問題に進みます。

ツアー登山のガイドの実態

・・というほどよく知っているわけではないのですが。
結論から先にいいます。
報道されているように、ガイドの資格規制を強化するなどの、日本全国のツアーガイドの能力底上げ作戦は、前述の企画会社のプランニング能力向上とセットでなければ効果的とはいえません。
ツアー登山の安全は、7割がたを企画書でカバーし、残りの3割を現場でフォローする体制が望ましい。どんなに規制をしてもヘナチョコガイドは出てきますので、あまり現場任せを前提にするべきではありません。

ガイドに最小限必要なスキルは、私が思うに、第一に、登山計画を読み込む力(業務の理解能力)であり、第二に、計画上示されたルート評価・パーティ評価・天気基準・装備を現場でアップデートする能力、第三にパーティを統括する能力(遂行能力)、そして最後に適切な知識すなわち、医療救急・自然リスク・気象・装備・食料計画・運動生理学に関する知識です。

もちろん、ガイドが緊急時に客を背負って下山できるような屈強さもあればあるに越したことはありませんが、ハイキングガイドの場合、野獣のような元気な学生を雇うなどしてアウトソーシングすれば足りますし、山での判断以外の雑務はアウトソースするのがベターです。急斜面や岩のルートでの客のサポートはガイドの仕事からはずしたほうが無難ですし、そういった業務は特段のスキルを要しません。ガイドは状況判断に専念するべきです。

しかしながら、現状では、上述の3つのスキルについては、ガイドの資質を確かめるすべは非常に限られているというべきです。いかにしてガイドの判断能力を計量するか。これは大きな課題です。登山の知識については講習会等でチェックすることが可能ですので、今後は資格規制強化に伴い、法令上の講習会受講義務といった制度をつくるのも一案です。

さて、理想はともかく、実態はどうでしょうか。

統計をとることができず、漠然とした印象に過ぎないことをお断りしたうえでいえば、組織登山とりわけ冬山登山を十分に経験したことのないガイドは、いまひとつ危険認識に欠け、判断に信頼がおけないという印象をもっています。また、たとえば、四十の手習いで登山を始めてガイドになった中高年の人たちや、学生のサブリーダーが慣れてきてガイドに昇格した場合(私などは典型)、あるいはツアコンが次第にガイドも兼務するようになったケースなど、出自もさまざまであり、少し怪しげです。ガイド専門で生計を立てているプロフェッショナルは、ツアー需要総数に比べると圧倒的に小数なのが実情でしょう。ほとんどが中高年登山ブームであまり計画性もなくツアー企画をやたらめったらに増やしたあげく、ガイドの人手不足を補うために、ツアー会社は助っ人を雇っているのではないでしょうか。もちろん有資格の専門ガイドだからとって判断能力があるという保障はどこにもないのですが、学生上がりのにわかガイドや中高年の趣味の延長からやってきたタケノコガイドに比べるとプロとしての自覚が期待できるだけに幾分ましです。ざくっとした印象数字でいえば、シーズン最盛期の7月で、少なくとも4割くらいはガイド業務に不慣れな人間がガイディングしているのではないでしょうか。

もちろん、これは印象論にすぎません。判断能力というのは本当に計測しがたく、実際に山で一緒に行動してみなければなかなかみえてきません。
また誰しもいきなり経験豊富なガイドになれるはずもなく、修行中の新米時代というのは存在するわけでその意味では、100%経験豊富なガイドで占められるべきとまではいえません。
しかし、この経験年数や出自に関する統計は今後きちんとしたベースライン調査を行い、把握されるべきです。それがなければ資格強化も絵に描いたもちだからです。

大雪山遭難パーティのリーダーに欠けていた能力とは何か

さきほど、ガイドとしての業務に最小限必要な能力を4項目に分解しました。
もう一度、整理しましょう。

1.登山計画を読み込む力(業務の理解能力)
2.計画上示されたルート評価・パーティ評価・天気基準・装備を現場でUpdateする能力
3.パーティを統括(Organizing)する能力
4.医療救急・自然リスク・気象・装備・食料計画・運動生理学に関する知識

1.登山計画の理解力

前述のとおり、ガイドに業務指示書を伝達しない風潮がツアー業界全体に蔓延しています。
これでは、ガイドが登山計画を理解する手がかりは、行程表と装備表くらいしかないことになります。ガイドは自分の想像力で、あるべき登山計画を自分なりに再構成するしかないわけですが、大雪山遭難の場合はどうだったのでしょうか。

いままでのさまざまな報道や生還者の証言を照らしますと、多田ガイドが最終判断権をもっていたと推察されますが、そうすると、焦点は多田ガイドがいかなる登山計画を想定していたか、がここでの問題になります。これに関して、私は生還者の戸田さんから情報を引き出そうと試みましたが、所詮、客の立場からは、ガイドの頭の中にある山行イメージまでは事実として証言することができないという印象をもちました。

しかし、いくつかヒントは散見されます。
それはいずれのガイドも、行動中のその時々において、客に今後の行動予定を理由を含めてきちんと説明していなかった様子が戸田証言から伺われることです。7月16日早朝の出発延期の判断に関して、戸田さんはトイレにいっていて聞いていなかったと残念な証言がされていますが、この判断はガイドの想定計画を知る手がかりになります。いずれにしても、この点の分析は保留とせざるを得ません。本人および松本ガイドの供述を待つほかないかもしれません。

2.ルート評価・パーティ評価・天気基準・装備を現場でUpdateする能力

リーダーには計画が想定していたルート状況、パーティの行動能力が現場で一致しているかを常に確認する義務があります。
ルートの一部が崩壊していた、あるいはパーティの一部に病人が出た、などの情報は常に更新され、それをオリジナルの計画にフィードバック(計画の再構成)する必要があります。

この点に関して、遭難パーティは、ツアー初日に嘔吐を何度も催すなどの体調不良者1名を認識しながら、翌日のツアーを続行し、2日目も依然として嘔吐するなどの体調不良者を認識していました。これは戸田さんの証言から明らかになった目撃事実ですが、これはパーティの行動能力を引き下げるべき重要な判断材料のひとつといえます。通常、組織登山では一人でも行動能力が劣化すれば全体として行動能力が劣化すると考えるべきだからです。したがってリーダーは一番体調の悪い人、脚力の弱い人を常にマークしておく必要があります。

またパーティ評価を更新する重要なツールであるハンドシーバの不携帯についても、疑問の声が上がっています。さまざまな証言から、行動中、ハンドシーバによる交信がなされた形跡がひとつもなく、これが迅速な判断を妨げた可能性が非常に高いというべきでしょう。

3.パーティを統括(Organizing)する能力

この能力は、上述のプランニングするスキルとは全く別といっていいリーダーシップの根幹にかかわるキャパシティです。

誰しも登山を始めたばかりのころは「処女峰アンナプルナ」を読んで興奮し、さも八千メートル峰にチャレンジしてきたかのような追体験を味わうものです。また山野井泰史の登攀記録を読んでは遥かかなたの辺境のクライミングに想像を掻き立てられるものです。

同様に、私たちは登山計画を立てる際に、何がしか過去の登山記録を参照することが多いでしょう。
その際、メジャーな山域ではルートの状況、天気などは詳細に記述がある場合が多いので、その追体験をもとに、それを自分の登山計画に活かすはずです。その結果、計画を発表する人間はさもみてきたかのようにルートの状況を説明でき、局地的な気象条件についても詳しく語ることができるようになります。

しかし、ここには大きな落とし穴があります。
それは計画で説明されたルート上のリスク、気象、デフォルトのパーティ評価に対して、実際にきちんと対応できる力がそのパーティにあるのか?経験があるのか?という問題です。
プランナーであることとオーガナイザーであることは全く別のことです。
誰でも想像力さえあれば、8000m峰のルート評価をし、気象について得々と説明することができるでしょう。また、たとえば、、ビッグウォールの途中のセクションで、5.10+ poor pro or A3+というトポの記載があった場合に、ノープロテクションでフリークライミングで速攻をかけるか、数時間かけてネイリング(ハンマーをふるって確保支点を作りながら前進)するか、というそこまでのイメージはできたとしても、じゃあ、実際にお前らは現場でどちらの選択をするのかというと、それは当事者にしか判断できないことですし、このパーティにはどちらかの選択が可能であろうという信頼は、リーダーのそれまでの経験から推し量ることによってしか生まれないのです。

もっと具体的にいいましょう。
たとえば、登山計画において、行動中ふらつくような風雨では行動をしないという指針を立てていたとします。さて、実際の行動中、ふらつくような風雨になりました。このとき計画(あるいはその後に更新された計画)したとおりに、ふらつくような風雨だから行動を見合わせましょうという決断を下すことのできる能力です。また客の行動能力の劣化を未然に防ぐべく、客のサポートをするのも危険を事前に回避しつつ業務を遂行する能力のひとつです。これは休憩をとる、食事や防寒具着用の指示を出す、といったこまごまとした実務が含まれます。
簡単そうにみえますが、この能力を確認するのは非常に難しい。

この点に関して、遭難パーティのリーダーはどうであったでしょうか。
また企画会社はどのような経験を参照して、リーダーの判断に信頼をおく根拠をもっていたでしょうか。初期の報道で、松下社長が吉川ガイドがこの縦走コースの経験者であると述べていたことに私は愕然としました。のちの報道で明らかになったように、吉川ガイドはこのコースの経験がありませんでした。結局、企画会社はガイドを委任するにあたり、リーダーシップがあるとする根拠はなんだったのか依然として不明です。

また、具体的な登山計画がリーダーの頭の中にしか存在しなかったとするならば、これはリーダーに聞く以外になく、現時点では、藪の中というべきです。だからこそ登山計画は共有されるべき情報なのですが、多くのツアーでは登山計画という概念が空洞化しており非常にあいまいなのが現状といえます。

事故パーティの16日以降の行動についての戸田さんの証言をみると、明らかにリーダーシップの欠如をうかがわせる事実がみえてきます。防寒具着用の指示が伝達されなかったり、風雨のなか、パーティを待機させたり、などです。
しかしながら、大雪の遭難パーティについて、私たちはどの時点以降の判断能力の欠如を責めるべきなのでしょうか。ある人は、風雨が強い中、小屋を出発する判断したこと自体が責められるべきだといいます。またある人は、天沼付近で引き返すべきであった、という。またあるひとは、北沼で1時間以上もその場で待機させたことに非があるといいます。パーティが分断したのが悪いというひともいますし、分断はやむをえなかったというひともいます。あるいは携帯電話での救援要請をなぜ優先しなかった/現実に低体温症で緊迫した状況ではどちらを優先するべきかはトリアージ的な決断になろう、など。

つまりヒサゴ沼避難小屋出発以降のパーティの行動については、本来どういう行動をなすべきであったかについては議論がわかれています。私は結果論の机上においても判断がわかれるような問題を現場の修羅場においては冷静な判断は期待できないと考えるのが妥当ではないかと思います。

今回のように、複数の場所で相次いで客が行動不能に陥ったスパイラルを想定すると、これに対する対策を事前に計画し、実行する能力はさほど重要ではなく、むしろ、判断するべき難題が次々に発生し、対応不能に陥る悪循環に至る前に、状況をコントロールし、すばやく組織する力こそがここで問われるリーダーシップです。
緊急時に適切に対処する能力よりも、緊急事態を予防する計画遂行能力がより重要です。遭難パーティのケースでいえば、7月16日に小屋を出るときの判断が焦点になります。
もしかりに、ガイドに対して、次々に故障者が発生したあとの緊急時の対応能力までを強く要求するならば、世の中のガイドの実態に全く即してない机上の空論というべきです。


実は、私は質問事項を作成しながら戸田証言には、この点の解明に期待を寄せたのですが、戸田さんの主観を取り除くと、証言の2割くらいにしか、そのヒントを見つけることができませんでした。これは被害者としてのやむをえない制約と思います。

この点は、裁判等で明らかになればと願っています。
(なお、この論点についての私の見解をみると、多田ガイド擁護の工作員と呼ばれてもいたし方がないかもしれませんね。評価は諸賢のご判断にお任せしたく思います。)

4.医療救急・自然リスク・気象・装備・食料計画・運動生理学に関する知識

これらがリーダーに必要な知識であることはいうまでもないことです。
しかし、遭難パーティはこの点で、重大な欠落があった可能性があります。

報道や生還者の証言から構成された遭難時のドキュメントをたどると、どれをとってもリーダーには不十分な知識しかなかったのではないかと疑わざるを得ません。

とりわけ気象と低体温症に関する知識は、生死を分ける重要な知識であったにもかかわらず、証言から浮かび上がる現実の対処のあり方からは、対処の十分な知識があったようにも伺われず、また予防策も不十分だったといわざるを得ません。戸田さんの証言によれば、北沼で発生した最初の故障者に対する初期対応は、しっかりしろと声をかける、テルモスのお湯を飲ませる、背中をさする、の三つです。素人目にも決して適切とはいえませんでした。少なくともすぐさまテントを張り、体温の低下を防ぐべきでした。もし三名のガイドに低体温症の適切な知識があれば、被害をもう少しは防げたかもしれません。

今後の方策

1.ガイドの登山計画の理解を促進する方策は、ツアー会社に対するインプットを検討することでボトムアップ的に可能かと思われます。つまり、ツアー会社はガイドとともに計画案策定に議論を尽くすべきです。そうすることでツアー会社はガイドを適切にコントロールすることができ、ガイドのクォリティの均質性も担保する道筋ができます。また下界で訓練が可能だというメリットもあります。

2.現場でのパーティ把握能力について。
これは難問です。コミュニケーションスキルもかかわってくる問題であり、これはガイドがこのスキルを習得するの時間がかかるようであれば、ガイドに向いていないものとして、淘汰されるべきでしょうね。妙案は浮かびません。

3.現場での判断能力について。
これについては、ハイキングでトレーニングするよりも、長期の冬期縦走や冬季登攀や厳しい沢登り・クライミングを通じて、精神的な余裕を磨くのがベターと思います。また自分自身が追い込まれるうようなシビアな登山の経験を通じて、余裕のない客のマインドも理解する一助になります。そういった研修プログラムを利用してみてはいかがかと思います。

4.登山の知識
これは前述したとおり、講習会メソッドが有効です。大勢のガイドを集めて開催できるメリットがあります。これは行政が関与してもいい対策ではないかと思います。


さて、ツアー会社の問題、ガイドの問題をひととおり軽く触れました。
次回は客の問題について考えます。トムラウシ遭難の教訓3〜ツアー参加者の問題 - + C amp 4 +

今後のツアー登山はどうあるべきか〜ツアー企画の問題点 その1

先月16日から17日にかけて発生したトムラウシ山遭難事故から2週間以上たちました。
この事故に大きな関心を寄せていた私は、さまざまな初期報道からは事実経過がどうしても飲み込めず、矛盾を整理するために、ありとあらゆるニュース報道を漁っていました。そんな折、文字通りありとあらゆるウェブ報道を収集し、分析を加えているサイトに出会い、これ幸いと、以降、そのサイトを中心に自分なりの意見を述べてきました。

最終的には、今後のトムラウシ登山のモデルプランのようなものをあのサイトを通じて提示できればよいな、という甘い目論見がありました。しかし、私にはどうすることもできない理由で管理人の機嫌を損ねてしまい、私の希望はいったん頓挫することになりました。というか、よくよく考えれば、最初から他人のサイトを宿借りするのがずうずうしいと反省すべきでした。

さて、09年のトムラウシ遭難は、およそ二つの観点から教訓を抽出するのがよいと思われます。
ひとつは、消費者という立場からみた、ツアー登山のクォリティの観点。
もうひとつは、比較的難易度の高いとされるトムラウシ山縦走コースに挑む一般ハイカーに対するアドバイス

本エントリは、ツアー登山の落とし穴という観点から、事故の問題点と今後の処方箋について軽く触れたい。まずは、ツアー会社の問題点をとりあげます。次回以降のエントリでは、ガイドそして参加する客の問題、そして一般登山者向けのトムラウシ山縦走のプランニングについて提案します(帰国後、改めて既往資料をみてから作成します)。
トムラウシ遭難の教訓1〜ツアー企画の問題点 - + C amp 4 +ツアー企画の問題
トムラウシ遭難の教訓2〜ツアーガイドの問題 - + C amp 4 +ツアーガイドの問題
トムラウシ遭難の教訓3〜ツアー参加者の問題 - + C amp 4 +ツアー客の問題

ツアー登山の課題

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/23738.htmlは次のように述べています。

【 ツアー登山の問題点 】

ツアー登山で参加者が死亡する事故は、たびたび起きています。同じ北海道では10年前に羊蹄山でツアー客ふたりが死亡し、7年前の7月には、今回と同じトムラウシ山でツアー客1人が低体温症で死亡しています。いずれの事故でも、ガイドは業務上過失致死で有罪判決を受けています。こうした事例がありながら、また大きな悲劇を生んだツアー登山。安全性を高めるために何が課題になっているのでしょうか。

その課題として、次の三点を指摘します。

▼まずツアーの日程に余裕を持たせるという点です。
予備日を設けるなどすれば費用が高くなりツアー客に敬遠されると言います。

▼つぎにガイドの技量の問題です。
ツアーとガイドの増加に伴って天候の急変やトラブルにきちんと対処できないガイドも増えていると指摘されています。

【 参加者側の問題 】
一方、参加者側にも大きな課題があります。登山ブームのなか装備や山の知識など十分な準備のないまま、ガイドまかせ、ツアー会社まかせで参加する人が少なくありません。

非常に正しいです。
NHK解説委員ブログの問題認識を基本として、三つの当事者グループの分析を進めます。

ツアー登山の主な関係当事者は、
A.企画する旅行会社(プランナー)
B.ガイド(リーダー)
C.参加者自身(客)
の三つであるといえます。

上記サイトによれば、この三つの当事者グループそれぞれにツアー登山の潜在的な危険因子が胚胎しているといえるでしょう。
ツアーの多くの場合では、ABCのうち何かしらほころびはあるものの、どこかでカバーし合って最悪の事態を避けてきた可能性があります。たとえば、企画した日程に無理があったとしてもガイドの腕がよく、適切な判断がなされたとか、参加者の行動能力が高かったとかです。

しかし、ABCの条件の組合わせが運悪くすべて悪い方に重なったとき、今回のような大惨事になるのではないでしょうか。

ツアー企画する会社の問題

通常、こうした登山ツアーは、旅行会社が計画を立て、日程を決め、それに添乗員をつけ、ガイドをアウトソーシングするという形が一般的のようです。添乗員がガイドもかねるケースもあるようですが、サービスの質がまるで違う、添乗員とガイドの二人羽織は避ける傾向があるようです。もっともこうした傾向は最近の話で、10年ほど前は、トムラウシ山往復ツアー20名を山岳経験もろくにない添乗員が羊飼いさながらに客を引っ張っているというケースもありました。トムラウシ山ではさすがに少しはなれた添乗員が来るのでしょうが、他の山では、羊飼いにすらなれず、添乗員がバテて途中で待機しているという姿も何度か目撃したのを覚えています。

こうした羊飼いツアーの大半は、90年代はじめに沸き起こった中高年の百名山ブームに乗って、登山旅行の分野に乗り出した大手の旅行会社やバス会社、鉄道会社でした。

旅行エージェントは当然、航空機・ホテルの格安手配を得意としますから、そこで価格差をつけようとしますし、バス会社は、とにかくどんなに遠くてもバスで行くセンスです。

バス会社の例

さしあたって具体例としてバス会社の例をとりあげましょう。
皆さんはバスの待合室でバス会社の企画した旅行ツアーのチラシやポスターをみたことがあるでしょう。なかには温泉ツアーなどに参加された人もいるかもしれません。バス会社の強みは、自分で登山口までダイレクトにつながる移動手段を持っているという、その機動力です。しかしホテルや航空機の手配には弱く、宿泊ツアーでは価格競争になかなか勝てません。したがって、バス会社の企画はそのほとんどが日帰りツアーとなります。つまり、バス会社としては基地局から日帰りで往復できる範囲が営業テリトリーとなります。

しかし、問題は、「ではどこまで日帰りで行ってしまうのか」です。
日帰りツアーの拡張概念に、【夜行日帰り】というタイプがあります。
これが曲者なのですね。夜行日帰りのギリギリの線ってどこまでなんでしょう。
土地勘がない方にはわかりにくい例かもしれませんが、札幌ー釧路を夜行日帰りでいく登山ツアーみたいなハードな企画が実在するのです。これは客より先に運転手がぶっ倒れます。

週に4回も夜中に日勝峠を越えるバスの運転手はいったいどこで休んでいるのでしょうか。

あるバスの運転手はいいます。
「いやぁ最近ほとんど寝てないさ。最近、夜行日帰りが連ちゃんよ」
運転手の間では、ハイキングツアーは貧乏くじのようなものです。一般道でも長時間運転のリスクがあるうえ、登山口までの林道をバスで突っ込むのもときには、命がけです。ですので、慣れている運転手しか割り当てられず、結局、適切なローテーションがなされず、同じ運転手が何度も夜行日帰りハイキングにまわされることがあるのです。

バスの運転手の悲哀は別の問題としても、ここにすでに、バス会社の企画の無理が現れているのがわかります。乗客はほとんど曲がらない座席で仮眠し、翌朝からがつがつと山に向かうわけです。

ところがバス会社のハイキングツアーで登山中の重大事故というのはあまり耳にしません。客は寝不足でフラフラになっているはずです。
なぜでしょうか。これは、ひとつに、バス会社のテリトリーが日帰りエリアに限られているため、難易度の高い縦走コース等を企画することがそもそもできないという偶然によるのではないかと思います。要するに、バス会社の制約条件として、日帰りピストン(同じ登山口からの往復)の企画にならざるを得ず、その結果、何かあったときの対処がしやすいツアーが多いということです。
バス会社の制約がツアーの安全を担保していたんですね。
それでも、どこの業界にも限界にチャレンジするバカがいるわけで、四国からオール仮眠4日間の富士登山バスツアーなるものも企画されているのを最近みかけました。参考:http://www.travelroad.co.jp/005/huji/fuji-o.htm

ではツアー会社に企画書なるものはあるのか

私はツアー会社の人間ではないので、憶測にすぎないことをお断りした上でこう勘ぐっています。

内部にはあるのかもしれません。少なくともガイドに手渡ししたり打ち合わせしたりする内容のあるものは存在しないことがほとんどでしょうね。

私は学生時代から好んでツアーのサブリーダーのアルバイトをしていました(学生にしてみれば日給1万円温泉付は魅力的だった)。しかし、どのツアー会社でも、行程表と地図と装備表以外のものをみたことがありませんし、事前の打ち合わせをしたこともありません。たいてい、当日の朝か夜に集合場所で初顔合わせをし、そのままろくに会話せずに山に突入!というパターンが多かった記憶があります。「あんた、この山初めてかい?」くらいは聞かれたかもしれません。しかし、学生のころは、いかにもリタイアしたじいさんが小遣い稼ぎにしてるんじゃないかと思われるような無能そうなガイドに当たってしまうと、自分もそうであるくせに、内心、何事もないことを祈る気持ちでした。実際のところ、ツアーが始まってしまうと登山計画について打ち合わせする時間などありません。

しかし、山岳部等の組織登山を経験すると、机上でのプランニングがいかに大切かを身にしみて思い知らされます。詳しくは、http://d.hatena.ne.jp/swan_slab/20090806#Planningに私の考え方を記載しましたのでご覧いただければと思います。あらゆる軍事行動がそうであるように、登山の成否は、プランニングにかかっています。机上のシミュレーション抜きに現場の司令官の行き当たりばったりの判断に依存していたら、必ず失敗します。

ところが、バス会社のツアーの場合、軍事行動になぞらえるほど、緊迫した企画ではないのです。
往復5〜7時間程度の山中行動のハイクツアーがほとんどです。半日程度の日帰りハイクで、イラクでの軍事作戦なみの綿密な企画書をつくれといったら、誰でもバカバカしいと思うでしょう。
つまり、装備の一つ一つの重量までチェックするといった綿密な計画を立てるほど、切羽詰ったルートでもないため、ツアー会社の側で、安易な企画書で通してしまうインセンティブが働いてしまうのです。また、バス会社は所詮、流行に便乗しているにすぎず、リスク管理に通じた専門のスタッフを適切に配置しているわけでもないので、綿密な計画を立てる能力と習慣がそもそもないといっても過言ではないでしょう。

つまりバス会社の企画において、安全管理は漠然と理解されているにすぎず、かりにマニュアルが存在するとしても、それが実行部隊たるガイドには公開されない以上、単なるお役所向けの文書に過ぎません。

アミューズツアーの事例から学ぶこと

アミューズトラベルのツアー企画は、バス会社の日帰りツアーに比べると、本社のバックアップ体制から装備の検討、顧客への事前の確認など安全性への配慮を含めて、あらゆる点でマシです。工作員呼ばわりされそうでいいにくいことですが、その辺のバス会社と比べるとずいぶんしっかりした体制にみえます。
90年代後半、まだアミューズトラベルが北海道の山に現在ほどは進出していなかったころ、アミューズトラベルは価格では勝負していませんでした。他社比2割増くらい?だったのではないでしょうか。
恐らくその理由として、価格で勝負したくともできなかったのでしょう。山岳専門のツアー会社としては業界で新参者でしたし、エージェントとのコネクションも薄く、ホテルの割引も交渉力が低かったと推察しています。
それでも顧客を徐々に獲得していったアミューズの戦略のひとつに、サービスの向上があげられると考えられます。客の立ち話を盗み聞きすると、浮かび上がってくるのは、固定客の創出戦略です。まず添乗員にボンクラを絶対に雇わず人間的にも魅力的な精鋭を揃え、お客さんの立場にたったツアー作りを心がけ、固定ファンを次々に引き寄せます。
第二の戦略は、登山ツアーのターゲットの拡大です。従来、どこのツアーも厳しい登山計画では年齢制限を設けていました。アミューズトラベルは、年齢にとらわれることなく、実際の登山歴をヒアリングすることによって能力確認をする戦術にでました。これにより、潜在的な顧客層のパイを大きく広げることになりました。客側にとっては、どこのツアー会社でもお断りされる高齢者でもアミューズが面倒みてくれることになり、結果としてアミューズツアーの平均年齢が相対的に高くなりました。「来る者は拒まず」戦略とでもいいましょうか。

第二の戦略は、登山計画に反映されており、過去のデータから、アミューズ独自ともいえるゆるい歩行スピードをもとに、行程表の時間読みが計算されています。これは客のヒアリングでもはっきりわかるのですが、アミューズツアーの固定客は、他社のハイスピードの登山を敬遠して流れてきているケースが多くみられます。山をゆっくり楽しみたいという動機の客もいれば、体力的な問題を抱えている人もいます。お客さんのひとりはこういいます。「某社のツアーは、弱い人にペースを合わせない。先頭集団についていけない人は次々にリタイアし、そこで待機させられます。先頭集団についていけた人たちだけが頂上を踏めるんです。それにくらべるとアミューズは・・略」と新聞社系列のツアーをこう評しています。このように、客の中には、他社のツアーの安全面に不安をおぼえてアミューズツアーに参加するひともいます。ただ、一方で、恐らく、客のなかには、もはやアミューズトラベル以外のツアー会社では断られて仕方なくアミューズに参加するひともいるはずです。つまり、顧客の基盤として、中高年のなかでも、さらに行動力の弱いグループをターゲットにいれていることになります。

しかし、パーティの標準的な行動能力を低く見積もることにリスクはないのでしょうか。

つまり一般の登山者が9時間かけて歩くコースはアミューズタイムで11〜12時間かけて牛歩のように歩く、といった行動能力の引き下げは、計画上、安全を阻害するリスクにならないのでしょうか。
当然のことながら、山中での行動時間が長くなればなるほど、行動中の危険は増します。
行動時間が長ければ体力を消耗しますし、悪天につかまるリスクもでてきます。
いいかえれば、牛歩センスは、比較的良好な天候の場合は、安全側に作用する場合がありますが、悪天候の場合は、パーティの行動能力を減退させる悪循環にはまり込む危険性をはらんでいるのです。

では、アミューズトラベルの企画において、こうしたリスク分析が反映されていたかどうか。
具体的には、行動可能な天候基準を厳格にとらえていたかどうか。

もしかりに計画段階で、7月16日のトムラウシ山越えの行程について、行動できる天気基準を明確にしてあれば、会社がその説明をすることが可能であったはずです。たとえば「小雨程度なら行動する予定になっていた」とか「体力の消耗する天候では行動しない」などです。これはマニュアル等の一般的事項ではなく、個別の行程について検討されていたかどうかです。しかし、現実には、一切の説明はなく、すべて現場の判断にゆだねていたといいます。これでは登山計画があったとはいえず、ガイドに行程表だけを渡して丸投げしたと批判されても仕方がありません。

パーティが行動できる天気というのは、ルート評価とアップデートされたパーティの行動力との関数できまります。もともとの計画で設定された行動可能な天気をもとに、パーティの能力の変化に応じて、天気基準の見直しをする作業が現場のリーダーの仕事となります。リーダーはその場で登山計画を立てるべきではなく、所与の基準を現場で確認するべきなのです。この計画と実施のプロセスのデマケができていなかった可能性があります。

これはアミューズトラベルに限った話ではなく、ほぼすべてのツアーに当てはまる大問題です。
多くのツアーは、実践上の登山計画をガイドやツアーリーダーに丸投げしているのです。

これにより、結局、行動できる天気基準ひとつをとっても、確たる標準化がなされないため、ガイドの資質に依存することになります。攻撃的なガイドは悪天候でも突っ込むし、弱気なガイドは石橋を叩き割ってでも渡らない。そんなガイド任せの登山計画は今後は厳しく批判する必要があります。

組織登山のメリットは情報の共有化にあります。
登山パーティがどのような基準で行動するか、悪天時の行動パターン等をあらかじめ共有していれば、緊急時においてバックアップ体制も充実しますし、パーティの行動の予測を立てやすいのです。
しかし、アミューズ遭難パーティのケースでは、事故直後の社長の会見で計画性のなさを露呈していました。
読売新聞の初期報道によれば、現地のルートの精通しているのは、吉川ガイド一人であったと報道されていました。私はウソでしょと瞬間的に思いましたが、松下社長はその会見で組織登山のメリットをまるで生かしていないことを示してしまったわけです。

ツアー会社とガイドとの連携の強化

そこで、教訓として、確実に次のことを私は提案できると思います。
まずツアー会社は、10〜20名規模の登山計画検討委員会を定期的に開催し、新規の計画だけでなく、既存の山行報告をもとに計画にムリがなかったかどうか、ブレインストーミングをまじえて、入念にチェックする機会をもつべきでしょう。とくに悪天候のシミュレーションは綿密に行い、考えうるケースは考えつくした上で、あらかじめいくつかの選択肢を計画に盛り込んでおくことです。たとえば、故障者の離団ないし故障者が生じた場合のパーティ分割の動き方、エスケープルート、停滞日の使い方などです。

その委員会を開催することで、参加者(添乗員やリーダー)同士が啓発しあい、自分では気がつかなかったリスクの発見につながる可能性があります。
したがって、ここで議論された内容は、参加できなったガイドグループにも議事録を配布するべきです。またガイドにとっても、企画会社側が責任をもって、行動基準を明確にしてくれれば、現場で撤退やエスケープの判断を客に説明する際に、「登山計画上、ある一定の条件下では行動しないことになっている」等と理由をつけやすいはずです。

また、そもそも企画会社がこうした計画策定作業に慣れていないという、シュールな事態も想像されますので、プランニングとは何かについて徹底的な社内研修をすることをお勧めします。


トムラウシ遭難の教訓2〜ツアーガイドの問題 - + C amp 4 +(ガイドの資質の問題)に続きます。