観光庁、登山ツアー企画の50社超を立ち入り検査へ

登山ツアー企画の50社超を立ち入り検査へ 観光庁 :日本経済新聞
登山ツアー企画の50社超を立ち入り検査へ 観光庁

2012/11/13 12:30

 中国河北省の万里の長城付近で日本人ツアー客3人が死亡した遭難事故を受け、観光庁は13日、国内外で登山ツアーを企画・主催する旅行会社50社以上を立ち入り検査する方針を固めた。ツアーを企画する際、社員が現地を下見したかどうかなど、安全対策の実施状況を調べる。早ければ12月から検査に入り、事故の再発防止につなげる。

 観光庁は立ち入り検査に先立ち、旅行会社の社内規定や登山ツアーの運行マニュアルの策定状況などを調べるよう、日本旅行業協会などの業界団体に要請した。

 各団体は週内にも加盟企業にアンケートを送付。安全対策の状況を確認し、各団体が定めたルールに違反する事例があった場合、注意や指導をする。アンケート結果は業界団体が年内にまとめる海外ツアー登山の運行マニュアルの策定にも生かすという。

 観光庁による立ち入り検査は業界団体からアンケート結果の報告を受けて順次始める。

 社員が現地を下見したかどうかは出張関連書類などで確認。登山中の通信手段の確保などについても詳しく調べる。

観光庁も何度も指摘していますが、以下の3点は非常に重要です。
1.登山計画に先立つ、事前の資料分析や調査(現場視察を含め)
2.リスク回避の判断基準
3.連絡体制

これらはガイドや添乗員が現場でそのつど考えることではなく、旅行企画会社があらかじめ用意しておくべきことです。

2のリスク回避の判断基準はなぜ旅行会社がつくる必要があるのでしょうか。
事件は会議室で起きているのではない、現場で起きているのだ、というふうに思う人もいるかもしれません。だから山のことをよく知らない旅行会社ではなく、ガイドに判断を任せればいいではないか、判断を任せられるガイドを雇うことが重要なのだ、と。

私はそれは違うと思っています。

リスク回避の判断基準というのは、ある意味で、車の交通ルールとよく似ています。
車の運転は、運転者や歩行者がルールを共有することによって、お互いの行動予測を立てることができるとともに、シートベルト着用義務や制限時速、悪天・災害時の通行規制など運転者の安全のためのルールでもあります。

こういうルールが登山でも計画段階でつくることができるわけです。
もちろん、自分で企画して登山する場合、俺ルールでよいのです。
雨の日は休み、それだけでも立派なルールです。
自分の登山歴と技術水準に見合った、俺ルールを考えておけばいいわけです。

登山ツアー企画会社の場合は少し異なります。
リスク回避の判断基準は、お客様の水準に見合った、ある程度標準化されたものである必要があります。さらに、その判断基準は少なくともお客様に対しては公開されるのが望ましいでしょう。そうでなければ、いざというときの対応をする際に、お客様にとってガイドやリーダーがどのような判断をするかわからず、自らの行動予測が立てにくいからです。
たとえば、天候が荒れてきたと思ってもガイドさんが前進をつづけていると「あれ?以前、別の山では同じような荒天で引き返しの判断をしていたのに?」という困惑をお客様にもたらすかもしれません。そうすると、その後の自己防衛行動に大きな影響を及ぼす恐れがあります。たとえば「てっきり今日の荒天では小屋で停滞だと思って、衣服の乾燥まじめにやってなかったのに、え?出発するの?マジで?」みたいなお客様にとって予想外の展開もありうるからです。

この判断基準は、企画会社が明確にルール化しておくことが大切です。
いいかえれば旅行会社としては「ガイドさんが中止や引き返し、停滞の判断をしたときは従ってください」という説明だけではダメなのです。

なぜダメなのでしょうか。優秀なガイドさんが適切に判断すれば十分なのではないかと思うかもしれません。実際、個人ガイドのツアーでは、ガイドの判断がすべてになります。
しかし、登山ツアーを旅行会社が企画した場合は、バックアップ体制をとる会社本部の人間はガイドがどのような判断をするかについて事前に把握しておくことがより安全に資するからです。
今回の万里の長城遭難事故では、登山の専門家は口をそろえて、悪天候が予想されるなかでの当日の出発自体が無謀であったと述べているようです。現場のことなど何も知らないにもかかわらずです。つまり、晩秋の11月、5時間以上の行程で、朝から小雨が降っており、雪に変わるかもしれないという情報があれば、それだけで中止の判断ができてしまうことを意味しています。机上で答えが出ていることであれば、はじめから計画のなかに中止の判断基準を明記することでお客様自身の判断に余裕を与えることができるはずです。もし私がガイドであれば、たとえ一日中小糠雨でも、76歳の高齢者を連れて6時間とか【ちょっとどうかなぁ】と思います。しかし、そのようなあいまいな空気を引きずると危険です。現場にいるとついこの程度ならばなんとかなるんじゃないかとか考えてしまって、フンギリがつかないものです。いっそ、初めから、ある程度のことまでは決まっていたほうがいいんですよ。それこそ雨天時の交通規制のように一定の時間雨量を越えれば自動的に通行止めになる、という具合の単純明快な基準があればいいわけです。
登山の場合であれば、たとえば、晩秋、気温10度以下、行動7時間(往路4H復路3H)、雨天行動は2時間以内を限度とし、下山時刻は16時をリミットとする、などと決めてしまうわけです。そうすれば、あとは現場でやるのは時間の計算です。その日の後半から天候が崩れる予報であれば、出発後2時間経過した時点が重要な判断地点になります。ここで初めてリーダーの天気判断能力が問われますが、少なくともここまでは旅行企画会社と判断基準を共有するべきでしょう。この判断基準は登山計画によってさまざまです。だからマニュアルの整備ではなくて、登山計画策定プロセスが重要になってくるわけです。
では、どうやって気象判断の基準を設定したらいいか。
正攻法は、過去の登山記録とその日の天気図等気象情報を調べることです。
過去に同じような気象条件で登山者がどのような行動をとったかを調べることです。


また、このことは先に述べた3の連絡体制の確保にもつながります。
もし、リスク回避の判断基準が事前に本部とツアー団体との間で共有されていれば、かりにツアー団体が行方不明になったり事故に巻き込まれたときに、遭難地点や時間、エスケープ経路などについて、ある程度は推測できるようになります。登山パーティが何時ごろ出発したかを推測する手がかりになります。ここがポイントなんです!この点が極めて大切です。