秩父山中における多発遭難事件について

今回のエントリは大雪山遭難事故とは直接の関係はないのですが、数日の間に同じ山域で9名が命を落とすというショッキングな出来事についてコメントをいたします。

7月25日に秩父の山中で発生した死亡事故について、所属組織が次のように声明を出しています。

秩父市大滝の山中における事故」について

去る7月25日奥秩父・滝川の山中におきまして、当連盟所属の会員が沢に滑落・死亡 いたしました。
この事故の救助活動中、埼玉県防災ヘリが墜落し搭乗されていた5名もの多くの方々の人命が失われるなど、多大なご迷惑をおかけする結果となってしまいました。
ここに謹んでお詫び申し上げるとともに亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
当連盟は日頃より「安全登山の教育・啓蒙・事故防止」活動を目標として努めてまいりましたが、今後これらの活動を更に見直し、尚一層改善し努力する所存でございます。
どうぞよろしく御願い致します。
http://twaf.jp/whatnew/165-201007.html(2010年7月31日現在の表示にもとづく ※その後削除され、2日時点でまた復活した模様です)

このお知らせが削除された理由は不明ですが、2chの登山板によれば東京都労山主催の沢登り登山教室のプログラム中の事故らしいこともわかりました。この情報もまた削除されています。もちろん正確な理由は不明ですが、何かを隠そうとする行動であることは疑いえません。恐らく登山教室プログラム中の事故であることを隠したかったのでしょうね。

768 :底名無し沼さん:2010/07/31(土) 00:45:40
やっぱりHPからは削除されたね
東京都連盟 2010年 沢教室開催のお知らせ - 東京都勤労者山岳連盟
http://megalodon.jp/2010-0725-2056-04/twaf.jp/2010-03-05-02-25-46/14-sawakyousitu/127--2010-.html

東京都連盟 2010年 沢教室開催のお知らせ

昨年に引き続き沢教室(第4回)を実施します。また、別途、沢ネットワークを続いて実施します。

目的

1. 沢登りの基本を教える。沢登り愛好者を増やし、沢登りの底辺を広げる。
2. リーダー層の育成、青年層の参加及び沢技術の継承。
3. 都連盟会員及び各会の交流。

2010年度の沢教室(講座)の日程、場所等について

1. 座学(場所はいずれも全国連盟事務所)
1回目 6月16日(水)講義内容 自己紹介、装備、地図、ザイル操作(1)
2回目 6月22日(火)講義内容 ザイル操作(2) 講師 都連盟救助隊に依頼
2. 実技の日程及び場所について
参議院選投票7月11日)
1回目 7月9日(金)夜〜10日(土)、雨天場合は11日(日)にスライドする
場所 西丹沢 小川谷廊下

2回目 7月23日(金)夜〜25日(日)
場所 奥秩父 古礼沢
3. 参加費について
昨年は、会員8,000円 学生5,000円 一般10,000円
4. 募集人員及び募集時期について
10人程度
5. 参加資格
山岳保険に加入しいること。家族が沢に行くことを承知していること。

申し込み先:事務局へのお問合せフォームよりお申し込み下さい。
申し込み締切日:6月14日(月曜日)

そんなことで報道に関心を払ってみているところへ、驚くべきニュースが飛び込んできました。

山梨・甲州の男性不明:あきる野市の男性、秩父山中で遭難死 /東京
 ◇ヘリ墜落現場そば

 山梨県甲州市の山中に車を置いて行方不明だったあきる野市、小池雅彦さん(45)について同県警日下部署は27日、25日に埼玉県秩父市の山中で発見され、直後に死亡したと発表した。

 埼玉県警秩父署によると、25日午後2時半ごろ、埼玉県防災ヘリの墜落現場へ向かう途中の同署員が谷でうずくまっている男性を発見。男性は小さな声で「小池です。50メートルくらい上から落ちました」と言って意識を失い、県警ヘリで秩父市内の病院へ運ばれ、まもなく死亡したという。27日に家族が本人と確認した。

〔多摩版〕http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20100728ddlk13040249000c.html

別の報道によると、家族には「写真をとりにゆく」といって24日未明に出かけたそうであり、発見場所は先の事故現場から100mほど離れたところだったという。
そして、さらに驚くニュースが入る。

ヘリ事故現場を取材の日テレ記者ら2人死亡 秩父の山中
1日午前9時10分ごろ、埼玉県秩父市の山中で、日本テレビ記者の北優路(ゆうじ)さん(30)=さいたま市浦和区=と、同社カメラマン川上順さん(43)=東京都江東区=が倒れているのを県警の救助隊が発見した。2人とも心肺停止状態で、病院で死亡が確認された。2人は7月25日に起きた県防災ヘリコプター墜落事故の現場に向かっていた。県警は2人が遭難した経緯などについて調べている。

 県警によると、2人が見つかったのは、乗員5人が死亡したヘリ墜落現場から北東に約2キロ離れた沢。7月31日午前6時半ごろ、日本山岳ガイド協会の男性ガイド(33)と一緒に、秩父市大滝の豆焼橋付近から入山。しかし、沢の水流が多く、2人はTシャツにジャージー姿と軽装だったため、ガイドの判断で豆焼橋に引き返したという。

 その後、午前10時ごろになって、2人は「黒岩尾根(登山道)を歩いたことがあるので、そちらを撮影してくる」とガイドを残して再び山に入ったという。

日テレ装備不足を否定 死亡のカメラマンは山岳取材のベテラン

2010/8/1 21:01

 「有能で意欲的な記者を失い残念な思いでいっぱいだ」。日本テレビ細川知正社長は1日午後、社員2人の遭難を受けて東京都港区の本社内で記者会見し、突然の悲報に険しい表情で語った。

 死亡が確認された報道局映像取材部の川上さんは、これまでにアラスカや中国など海外の厳しい自然の中での取材経験もある山岳取材のスペシャリスト。山での突発の事故では真っ先に現場に駆けつける取材班の中心的存在だった。

 同社によると、防災ヘリコプターの墜落現場周辺のニュース取材は事故から2日後の先週火曜日ごろから検討。社会部長を中心に相談し、1日限定で小型カメラを携帯し、ガイド付きという条件で経験豊富な川上さんと、今年6月までさいたま支局に所属し、事故発生当初の取材にも参加した社会部の北さんを取材に派遣することにした。

 2人は発見時、Tシャツにジャージー姿と比較的軽装だったが、杉本敏也報道局次長は「この装備は沢を渡るときだけのもので、(山岳取材に必要な)荷物や上着なども持っていた。無理な取材を強いたこともない」と、事前の計画や装備の準備不足を否定した。

 ただ、2人が当初予定とは違うルートにガイドなしで再度、入山した経緯は不明。杉本局次長は「なぜガイドと離れ、事前の打ち合わせと違う場所に行ったのか分からない」と声を落とした。

ほぼ同じ現場で数日の間に9名が遭難死

これだけでも異常なことですが、ヘリ墜落は救助中における二次遭難といえるだけに、原因解明が望まれるます。他のグループや単独登山者については二次遭難といえるだけの因果関係はないと思われますが、これだけの犠牲者が同時期に出ていることから警察当局におかれては原因を慎重に見極めてほしいものです。

日本テレビは、川上さんは経験豊富*1で、事前の計画や装備の準備不足を否定したといいます。
現在詳しい死因や事故原因は不明です。それなのに、どうしてそんなことをいえるのか??ですが、それをさしおいても、私はつねづね、登山の世界で「経験」「ベテラン」を強調する奴は怪しいと主張しています。
豊富な経験などというものは、プラスにもマイナスに作用するのが登山というものです。
あのときはこうだった、という思い込みが邪魔して、理性的な判断をなし得ない場合がしばしばあります。リスクマネジメントの世界では、これを正常化バイアスといいます。「ベテランがなぜ」などという小見出しをしばしばみかけますが、登山の世界だけです。きちんとヒューマンエラーの分析をしないで経験不足に原因を求めて責任追及モード全開なのは。
もし経験を定量化できるのであれば別ですが、できないのであれば安易に経験に原因を求めてはいけません。
また、なぜ計画と異なる行動をとったこと自体に計画段階の瑕疵はなかったでしょうか。


それから、この遭難者はパンキシャという番組のための取材であったという疑いが浮上していますね。
パンキシャといえば、世間に迷惑をかけるような山岳遭難をネタに非難したりして視聴者のガス抜きを図っているような番組をみかけますが、完全にブーメランとなりましたね。

個人的な思い

個人的には、これらの4件の事故の中では、小池氏がお亡くなりになったのが大変ショックを隠せません。
なぜなら彼こそが、昨年の今時期にトムラウシ事故遭難の分析において、お世話になったサイトの管理人だったからです。その後の私への執拗な嫌がらせがいろいろとあったが、それについては、アクセス解析の状況からして、私は今でも彼が主犯だと思ってますが、それについてはもう忘れてもよいとおもっています。決して許さんけど、もうええわな、というか。

単独行

小池氏には最後にひとつだけいわせてください。

どんな登山哲学をもとうと、死んだらあなたの負けだよ。
私も単独登山の魅力につかれたことがあるのでわかる面があるのだけど、単独行には、ひとを求道者のように陶酔させる面があります。それは強さの証しとして自分の目には映じる一方で、第三者から何もフィードバックされることのない脆弱性にはなかなか気がつかないものなのだ。また独りであることが過度に自分自身を追い込んでゆくこともときとしてある。単独行の危うさというのは、集団登山ではないような、強い自律性を要求されながら、みえない脆弱性と戦わなくてはならないところにあります。少しでも隙をみせたら命取りということがしばしばあります。それだけの緊張感と戦い抜いたあとの気分は私にもよくわかるし、何度も味わいたい気持ちもわかります。

思えば、あなたのウェブサイトはいつも単独行の記録ばかりだったね。

私の持論は、いいかげんさを持ち合わせている人間が最後に生き残る、とつねづね思っています。
いつも、独りであることに酔ったままではいけないのです。
だからこそ私は単独行の武勇伝を人には語らず、仲間に助けられながら登った山の記録をむしろ公表しています。自分の弱さを知ることのほうが私には大切なことであるし、身の程を知ることによって単独行の限界もみえてくるからです。

ウェブサイトで、小池さんの撮影された数々の写真をみせていただきました。静かな山の、一瞬をとらえた写真はどれもすばらしいものでした。
美しい夕暮れの写真を撮影して幸せそうにカメラをしまいこむ小池さんのことが想像されます。
今回はいい写真がとれましたか。最後に幸せな瞬間があっただろうと信じています。

謹んでお悔やみもうしあげます。

*1:私の記憶が正しければ少なくとも学生時代には中部日高の!!!マーク(今は懐かしい山谷本レート)の沢を4,5本踏破した経験があるはずです。