ルート評価についてのコメント

生還者数名がコマドリ沢〜登山口まで8時間かかっている理由

もっとも早くに下山できた前田和子さんでさえ、コマドリ沢分岐付近で遭難の第一報を発してから、短縮登山口まで8時間もかかっていますが、これほどまでに時間がかかった最大の要因は何だと考えられますか?体力の消耗のせいでしょうか。それとも雨で足場が悪かったせいでしょうか。

7月24日付のOPTさんのコメントをうけての回答

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OTT様

想像にすぎませんが、さしあたってルートの問題と夜間の行動の二つが疲労に加えて寄与しているものと考えられます。

コマドリ沢より新道に入ると、急な登りが一時間ほどつづきます。この道は、かつて沢沿いの旧道が相次ぐ増水遭難事故のため閉鎖になり、あらたに開拓されたもので、開拓当初は根曲がり竹の斜面を無理やり切り開いたような、ルートとしてはできばえが非常に悪いものという印象があります。
今はどうかわかりませんが、開拓当初は、下手に転倒すると根曲がりの鋭利な切り口で服や体を突き刺す危険があると注意がなされていました。
そのうえ、カムイ天上付近で旧道と合流するのですが、このあたりは昔から雨が降ると、ベトナム戦争のようなぬかるみになることで悪名高い場所でした。登山道はV字状の深い溝になり、ときには急な下り坂をじょぼじょぼと水が流れている有様です。藪をつかんで脇をへつっていく上半身の体力がときには必要です。
このルートを命からがら降りてきた高齢者がヘッドライトを頼りに歩くとすれば、何度となく転倒することは容易に想像ができるわけで、転倒するたびに、消耗し、体を休め、足の歩みは逡巡し慎重にならざるをえず、生還して発見されたときの格好が泥だらけであったのは、このときの格闘を物語っていると思われます。

そのほか足の怪我などの要因もあったかもわかりませんね。
http://subeight.wordpress.com/2009/07/24/matumoto-hitoshi/#comment-280より

エスケープルートの選択肢と予備日の可能性について

7月24日付
はじめまして。
精密な事実の整理と考察、大変参考になります。
私もこの件に関して、関係者の話も聞く機会があったため、ある程度の分析や所見はもっています。ただ、それだけに、あまりに身近すぎて、書くにかけず、主観が邪魔して何一つかけません。とくに三人のリーダーシップはどういうものだったのか。生還した多田君や松本さんには真実を語ってほしいと願っています。

かつては、このルートの縦走はパーティ評価の判断よりも山越えのルート判断もまた難しいと考えられていました
なぜなら、大雨が降ると、短時間のうちにコマドリ沢に集水され、それより先の渡渉が増水により困難になる可能性があるからです。実際、かつてリーダークラスの岳人の間で第二の難所とされていたのは、森林限界を下がったコマドリ沢の増水でした。実際、かつては増水した沢に飲まれて死亡する事故が相次いでおりました。
ですから、ヒサゴ沼の小屋ないしカウン分岐でのっこすか、引き返すか、エスケープするかの最終判断をする際、雨の状況次第では沼の原登山口(あるいは天人峡温泉エスケープする選択肢がかなり現実的なものとしてリーダーの頭の中にはあったものです。しかも最終判断地での待ち時間は長い行程を考えれば長くて 30分程度。いけるところまでいってみようみたいな、場当たり的な判断は許されず、即断しないといけませんでした。
いいかえれば、世間でツアー登山の落とし穴みたいにいわれているような、日程固定のプレッシャーによる判断のゆがみよりも、増水事故の可能性のほうがリーダーの判断を拘束しており、パーティ評価で頭を悩ます以前に、かえって増水を根拠にしてにエスケープの論理をたてやすかった記憶があります。

しかし、今では新道ができたためか、ルートを理由にヒサゴ沼でエスケープする判断をしにくくなっているのかもしれませんね。
http://subeight.wordpress.com/2009/07/18/tomuraushi-2/#comment-278より

silvaplaunaさんの考察をうけて、エスケープルート評価・時間等についての回答

silvaplauna様

本来ならこちらからきちんとした情報提供すべきところ、大変失礼しております。

記憶ですが、ツアーの時間読みで、だいたい
小屋→カウン岳手前分岐(1・5h)
カウン岳手前分岐→五色岳(1・5h)
五色岳→五色の水場(2h)
五色の水場→沼の原入り口(1・5h)
沼の原入り口→クッチャンベツ登山口(2h)
と記憶しております。
しかし、風雨を加味すると、弱い人がいればプラス3時間くらいみるべきでしょう。トータル11・5時間です。決して楽とはいえないエスケープです。

天人峡の時間読みはだいたいsilvaplauna さんのご考察のとおりです。

ただ経験的に、天人峡とどちらが負担が少ないかといえば、平坦な道の多い沼の原経由です。本件であれば風を背に歩けるのでよりベターでしょう。

しかし、通常、コマドリ沢旧道コースの危険をさけてエスケープするパーティのほとんどは天人峡に下る選択をしていたと思います。なぜなら、それだけの雨量になると沼の原コースは木道がついているとはいえ、水位に不安を覚えるはずです。実際には、そんなには増えないのですが。また、天人峡には公共の交通機関があり温泉もあるからです。添乗員やガイドにはホテル代バス代と頭の痛い問題が待ち構えていますが、温泉で疲れを取るのもやはり重要です。
一方、クッチャンベツ登山口はゲートのある林道の終点で国道に出るまで8km程度は歩かなければならなりません。

しかし、当日、かりにヒサゴのコルで最終判断をしたとして、カウン沢方面からふらつくような爆風が吹いていれば、天人峡に降りるよりも、風下側のクッチャンベツルートを薦めたいです。ツアーであれば、一人スタッフを沼の原あたりで先行させてバスを呼びに走るでしょうね。
http://subeight.wordpress.com/2009/07/26/escape/#comment-293より

北海道大雪山系 トムラウシ山 大量遭難を考える。 今回の事故について戸田新介様のご意見 と 幾つかのご回答 | 甲 武 相 山 の 旅(7/31)に対するコメント

他人のブログのコメントから引っ張ってきてお手数をおかけしました。
noho様からのご質問への回答です。

swanslab様
私はあなたのお陰でこの事故の事実少なからず近づけたと感謝しています。下記の件をお尋ねするのはあなたが適当ではないかと思います。ご教示いただければ幸いです。

⑤白雲避難小屋からのエスケープ(多分銀泉台)はリスクがあるのか?シェルパは最初の故障者の介添えには使えないのか?

まず共有している事実の確認からはじめます。
http://subeight.wordpress.com/2009/07/31/mr-toda-text/
の質問⑦に対する、戸田さんの回答によれば、ツアー初日の旭岳〜白雲避難小屋の行程において、嘔吐を催すなどの明らかな体調不良者が目撃されています。また戸田さんはその日、二度目撃したといいます。またその客の対応のため、ガイドが全員集まったのも目撃していますので、少なくとも白雲避難小屋到着の時点で、ガイド三名には体調不良者が一名いることの認識がありました。これが現場でどのような判断がなされたのか不明です。

さて、もしかりに、私がガイドであったとして、緊急下山の決断をする場合には、銀泉台経由か高原温泉を選ぶかはその日の風向きで考えるでしょう。銀泉台コースの場合、ルート上の問題としては、赤岳〜コマクサ平の風衝地帯で体力を消耗するリスクはありそうです。少なくとも3時間は吹きさらしです。また、標準的なアミューズツアーのパーティ能力を想定すると、この時期であればコマクサ平の下部の雪田のトラバースも短いながら侮れません。雪田に突入すると、登山路の出口がわかりにくいはずです。私はピストンの場合でも、何度かカッティングしたりステップを切ったりして通過させています。

一方、高原温泉下山を選択した場合、難所は下部1500m付近の大きな雪田帯です。これを初見で下るのはガイドの地図読みの能力を要するかもしれません。しかし、当世、ツアコンやガイドには磁石のきり方もしらない人がいますので、読図に慣れていない人には強くは勧められません。またルートの利用者も少なく、雪田一帯は冗談じゃなく本当に熊が出没する可能性が高いので雪渓に出る前に高らかに鈴を鳴らしたり歌を歌ったりしながら下りるべきでしょう。ただルート自体はやさしいし、最短といえます。


次のご質問ですが、コミュニケーション能力から考えて、ネパール人のテンバさん一人で故障者の介添え下山するのはお勧めできません。この場合、松本さんがベターでしょう。銀泉台下山後、比較的早い午前中に故障者を離団させることができるならば、速やかに登りかえしてパーティと合流するか、高原温泉の場合はクッチャンベツ登山口にタクシーで移動し、沼の原を駆け上がるというのもひとつの案でしょう。しかし、この場合も、この時期はヒサゴ沼手前の小屋への短縮ルート上の雪渓もいいかげん長いので、道に迷うかもしれませんね。地図の読めるガイドであれば問題ありません。ガイドの能力と天気によりますので、なんともいえません。

もしかりに離団というのではなく、東大雪荘に先回りするのであれば、松本さんは故障者と同行するべきでしょうね。その場合、本隊の三日目は脆弱な体制になりますので、動ける天気基準を一段引き下げる作戦にでて、7月16日の天候では体調不良者がいない場合でも、頂上をあきらめて沼の原登山口に下山するのがよいと私は考えます。

あやふやな回答で申し訳ありません。今後の参考になさっていただければと存じます。