アミューズトラベル社のツアー運営体制

万里の長城遭難事故の続報によると、ガイドの人選は、去年入社した中国国籍の添乗員や現地の旅行会社に任せ、会社としてガイドの名前や経験などは把握していなかったそうです。

万里の長城 会社でコースの下見行わず(NHK News Web)
11月5日 19時24分


中国の河北省の山間部で、日本人観光客4人を含む5人が大雪で遭難し、3人が死亡した事故で、ツアーを企画した旅行会社によりますと、日程やコースなどの計画は地元の旅行会社からの情報などを基に決定し、会社としてコースなどの事前の下見は行わなかったということです。
海外の山岳ツアーに詳しい専門家は、3年前、同じ会社のツアーで起きた、北海道大雪山系トムラウシ山での遭難事故の教訓が生かされなかったのではないかと指摘しています。

ツアーを企画した東京・千代田区の「アミューズトラベル」の説明によりますと、「万里の長城」を歩くツアーは今回初めて企画したものでしたが、日程やコースなどの計画は、地元の旅行会社からの情報などを基に決定し、会社としてコースなどの事前の下見は行わなかったということです。
また、今回のツアーには現地のガイドがついていましたが、ガイドの人選は、去年入社した中国国籍の添乗員や現地の旅行会社に任せ、会社としてガイドの名前や経験などは把握していなかったということです
今回の事故について、日本山岳ガイド協会の理事長で、海外の山岳ツアーの旅行会社を経営している磯野剛太さんは、「まれな大雪だったとはいえ、どうして3人が死亡するような結果になったのか、非常に疑問だ。初めて企画するツアーでは通常より手厚い態勢で臨むのが普通であり、ガイドの名前も能力も分からないというのは考えられない。ツアーの態勢に問題があった可能性がある」と話しています。
アミューズトラベルは、3年前、北海道のトムラウシ山でガイドを含む8人が死亡した登山ツアーを企画した会社で、この事故のあと、磯野さんは、業界として事故原因の調査に当たりました。
今回の事故の原因について、磯野さんは、「冷たい雨が雪に変わるなかで行動を続けたため、低体温症になって衰弱した可能性が考えられる。そうなる前になぜ引き返す判断ができなかったのか、ガイドや添乗員の判断が問われることになる。トムラウシ山の遭難事故のあと、アミューズトラベルは会社として再発防止に取り組んでいると聞いていたが、今回、判断が現場任せになっていたのを見ると、教訓が生かされておらず、取り組みが不十分だったと言わざるをえない」と指摘しています。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121105/k10013266291000.html

あまりにお粗末な話ですが、もっと残念に思うのは、上記のNHK報道記事中にある、日本山岳ガイド協会の理事長さんのコメントです。
このブログで私は、同協会が出した「トムラウシ山遭難事故調査報告書」にはいくつかの不備があると指摘してきました(トムラウシ山遭難事故調査報告書のまやかしと盲点 - + C amp 4 +参照)。
このなかで、私は事故調査報告書は、リーダーの過失・能力不足に焦点を当てたために、全体として、ガイドをもっと鍛えようというマッチョな結論に仕上がっていて、本来ツアー会社が監督すべき登山計画策定プロセスへの考察が抜け落ちていると指摘しました。また同報告書はツアー会社のリスクマネジメント体制に問題があるとしながら、同社への踏み込んだ調査を実施した形跡がみられないことも調査不足を感じました。

本報告書はきちんと旅行会社について事実を確認したのだろうか

報告書はこういった形での提言がなされなかったのみならず、実際の事故を起こしたツアー会社において、それをしていたのか、どの程度なされていたのか、それともしていなかったのか、その事実についてもあいまいな記述の仕方をしています。

そのために、スタッフ・ミーティングをしっかり行なうよう、会社としての指導が徹底されていたとは思えない。(P40)

などと報告者自身の憶測や認知を表明しているのはあきれます。それならば何の取材もせずに書けるブログでもできることです。いったい何を調査してきたのでしょうか。

企画会議の議事録の入手やインタビュー調査まで行ってほしかった。

事実を入手してはじめて意味のある提言ができるというものです。
トムラウシ山遭難事故調査報告書のまやかしと盲点 - + C amp 4 +参照

同様の不満は『トムラウシ遭難はなぜ起きたのか』羽根田治, 飯田肇, 金田正樹, 山本正嘉共著にも感じています。
ガイド協会にしても、これらの著者には事故を起こした会社のマネジメント体制を調査し、教訓を世間に共有する社会的責任があったと思っています。それが欠落した報告書や著書には失望していましたが、教訓を伝える責務があったのは、アミューズだけではなく、磯野さんあなた方の協会だったのでは?業界の一部じゃないですか。アミューズ社を放置した責任を少しは感じていただきたい。

アミューズトラベル社の気象遭難防止対策

万里の長城遭難について、大変痛ましく報道をみています。
現地は52年ぶりの記録的な大雪とのことで捜索が難航していたようですが、
さきほどのニュースでは行方不明者が遺体で発見されたとのことです。

3年前の大雪山遭難事故を踏まえて、同社は気象遭難を防止する取り組みを進めていたはずでした。
同社は山岳気象予報会社と契約をして、より確かな情報をもとに基準を明確にして気象判断をすると説明していました(*下記 同社の取り組み参照)。
今回、同社の取り組みはどれくらい活かされていたのでしょうか。
それだけに、また気象遭難か、という失望感はぬぐえません。

以下、Googleキャッシュから、アミューズトラベル社の「トムラウシ山遭難事故調査報告書」の提言を受けて当社の取り組みを掲載します。ウェブサイト閉鎖していることも相当に残念ですね。

トムラウシ山遭難事故に関してのお詫び

トムラウシ山での遭難事故に関しまして、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆様には衷心よりお詫び申し上げます。

さて、トムラウシ山遭難事故後、弊社役員の安全登山に対する強い信念と決意のもと、安全を最優先のツアー運営を実践するため様々な対策を講じてまいりました。又、トムラウシ山遭難事故調査委員会より「トムラウシ山遭難事故調査報告書」が提出され、この報告書で指摘された諸課題を真摯に受け止め、安全登山の確保に向けてより一層の改善努力を尽くして参ります。

トムラウシ山遭難事故調査報告書」の提言を受けて当社の取り組み

*リスク・マネジメント等について
安全山行委員会は、企画を立案し販売する会社側と現場でツアーを実際に運営し挙行する、ツアーリーダーとの間に事故に関する危機管理に齟齬がないかを都度確認し、現場の実情を把握しつつ、安全対策に対する様々な方法の提案などを相互に協議する場として運営して参ります。
具体的には同委員会の委員を中心に、リスク・マネジメントの体制を整え、どうしたら事故を未然に防ぐことができるか。そのためには何をすれば良いのかに重点を置いてツアー内容を検証し、ツアーリーダーの意見が企画やツアー運営に今まで以上に反映できる体勢を構築し安全登山を実践して参ります。
日ごろのツアー運営でも安全配慮を最優先させますが、万が一危機的状況下に見舞われた際は、現場ツアーリーダーは一体となり強い意志を持って参加者の安全確保を最優先に行動すべく、ツアーの中止や変更、あるいは延長せざるを得ない場合など、あらゆる手段を講じて参ります。また、ツアーリーダーが決定したツアーの中止や延長の判断を会社が尊重して行くことで、ツアーリーダーが精神的な予備日(自己裁量できる余裕)を持てるように会社としてバックアップいたします。

*ツアーリーダー研修内容について(特に低体温症の研修)
当社の設立以来、現場において発生した事故は、滑落・転落等にともなう事故が殆どであり、当社が行うリーダー研修会は滑落・転落等のレスキューが主な内容で、他のリスクについての検証が十分になされていなかった点を深く反省しております。2005年に「低体温症」に関するレポートとその対策を掲示しましたが、その後は、山の緊急医療ハンドブック(低体温症も掲載)を配布しておりましたものの、具体的な低体温症についての研修は行っておりませんでした。ツアー登山における低体温症等の山での危機管理について継続して検証し、今後は研修会の必須項目として「低体温症」を取り上げて参ります。

*ガイド(ツアーリーダー)の選定方法など
今回の添乗員、ガイド、サブリーダーともに経験豊かで実力を持ったスタッフを配置しましたが、結果として遭難事故となってしまいました。今後のスタッフの選定は「安全山行委員会」の委員を中心に執り行い、 リスキーなプランにおいては、危機対応の力を中心に歩行クラスや山の難易度に応じたツアーリーダー(ガ イド)選びを今まで以上に慎重に選定いたします。
また、ツアーリーダー同士の打ち合わせを徹底し、天候やルート上の危険に関する共通認識、旅程上の問題、 参加者の個人情報を共有し山行の危急時に対応いたします。各々のツアーでは、ツアーリーダーの中から「山 行責任者」を選定して山行中のリーダーをお客様とスタッフに明確に分かるようにいたします。

(補足)
◎ツアー全体の責任者は添乗員であることに変わりありませんが、山中ではガイドの判断が優先 されるため、山行中のリーダーの明確化が必要です。そこでツアー毎に「山行責任者」(ガイド)を指定し山中での責任者を明確にします。山行責任者は山行前に、本ツアーのリスクについて参加者に事前説明を行います。
◎添乗業務を兼務するツアーリーダーには旅程管理主任者資格の取得を義務付けます。

*気象判断について
当社催行のツアー登山において、天候不良によってツアーの延泊、変更、登頂断念による下山という事態を余儀なくされたケースは、2008年からトムラウシ山遭難事故前(2009.7.15)までの間、ツアー本数にして47回以上ございます。その殆ど全てが現場ツアーリーダーの判断でおこなったものです。かように当社では、「想定外の悪天になった場合は、添乗員は他者の行動に惑わされずツアーの中止や停滞など顧客の安全を最優先して判断すること」との規定を念頭に安全の確保に努めてきた経緯にありますが、具体的な判断基準としては不十分ではないかという反省から、山岳気象予報専門の「(株)ヤマテン」と契約を交わし、すでに天候判断の基準として利用しています。利用方法としては、現場ツアーリーダーはツアー出発前に天候の推移を確認し、山行時にもヤマテン社と直接交信し天候の推移に関しては細心の注意を払うことに努めます。

*予備日について
今年度より予備日付のツアーを設定しました。予備日付以外のツアーでは、全てのツアーが予定通りに進まない場合があることを参加者に十分ご理解いただき、その意味において「全てのツアーに予備日(日程の延長)がある」と啓蒙してまいります。現場ツアーリーダーには「安全登山を全てに優先させます」との会社理念を徹底させ、その結果としてツアーリーダーの裁量に基づく判断(延泊や途中下山など)については、参加者にご理解を賜りますように会社としてお願いをして行きます。

*避難小屋(無人)・テント泊など
避難小屋の持つ社会的機能を尊重し、これを利用することを折り込まず「テント泊」と明記します(幕営禁止場所等、一部除く)。テント泊ツアーでは「衛星電話」を携行させ連絡体制を確立し、ラジオを携行させます。停滞などに備え予備食料の持参などを旅程表に明記します。さらに、テント泊ツアーではお申し込みから出発までの間に申込者に適宜連絡をおこない、テント泊に伴うリスクを伝えて理解を求め、又山行歴をヒアリングするなどして申込者の体力や技術並びに必要とする装備を予め確認させていただきます。
また、ほとんどのツアー登山では、通常数時間〜半日程度、携帯電話(衛星電話を含む)が通じないリスクがあることを参加者にご理解いただくように啓蒙して参ります。

*顧客管理や申込み基準等について
ツアーリーダーはツアー終了後に参加者の歩行基準を検討し、目的の山に見合った体力や技術が不十分と思われる顧客の情報を安全山行委員に集約させ、その顧客の体力や技術に合ったツアーを提案していきます。
さらに、登山に役立つ日常のトレーニング方法なども日頃から啓蒙して参ります。
また、当社のツアー参加基準では、体力度★4と技術度★3の参加年齢は70歳以下とし、体力度★5と技術度★4の参加年齢は65歳以下で募集しております。今年度からは、難所、長距離・長時間、高山病などリスクの高いツアーでは、募集パンフレットに「リスクマーク」を表示し危険箇所の具体的な注意を促します。

※本文中の「ツアーリーダー」とはガイド(山行中のガイド及び山行責任者)、 添乗員(ツアー中の総責任者/旅程管理資格者)、サブリーダー(ガイドや 添乗員のサポート)等の総称でツアー中のスタッフすべてを指します。



*これは Google に保存されている http://amuse-travel.co.jp/amuse_x/index.php?cID=228 のキャッシュです。 このページは 2012年10月22日 02:19:48 GMT に取得されたものです。 そのため、このページの最新版でない場合があります。